01. 異端者(2/37)

危険魔法対策部について特筆すべきことはない。あるとすればこれだけ。部長が嫌らしい。本当に嫌らしい。

その嫌らしさについて述べ始めたら、きっとそれだけで世紀の大論文の様なページ数に至ってしまうだろう。だから止しておく。

ただ一つ言うのなら、彼の嫌らしさが、いま私をこの席へ座らせていた。



三ヶ月前、16歳になって間もなく、晴れて魔道学協会魔道士職員となった少女は新人いびりを受けた。少なくとも私はそう思っている。

なんせ、もはやお伽話の登場人物だと言っても過言では無い、『魔導書』を見付け、連行しろというのだ。

しかし見付かってしまった。あまりに呆気ない。尻を叩かれ、首都から追い出されてから、僅か一ヶ月足らずだ。


『魔導書』は私の目の前に座っている。


なんたる強運。この機を逃すもんか。なんとしても……なんとしてもあのイヤ〜な感じの部長に一泡吹かせてやるんだ。

「どんな可笑しな顔して悔しがるんでしょう…」

「お前が可笑しな顔」

おっといけない。頭の中が声と表情を通して公共放送されていた。おそらくとんでもにやけていたのだろう。目の前の彼は呆れ顔だった。

「というかさ、俺が首都まで大人しく着いて行くと思ってんの?」

「ダメですか?」

「好き好んでとっ捕まりに行く奴がどこにいるかよ」

まあ、流石にそこまでトントン拍子で進むとは思っていない。しかし突然目の前にポッと出たターゲット。作戦も何も準備していない。

説得とかしてみるか。『魔導書』の魔法なんかに手を出して、田舎の母ちゃん泣いてるぞお前、的な。よし、これだ。

「えっとですね、『魔導書』の魔法を使用してはダメなのです。国が禁止している古代魔法の一種で危険ですし……危険ですし…………とにかくダメなのです。だから田舎の母ちゃんが、」

「お前『魔導書』についてほとんど知らねえだろ」

「すいません。スプーン咥えたまま話すくらいでしたらせめて最後まで聞いてください」

サンデーはもうほとんどなくなっている。最後に残ったシリアルと溶けたアイスクリームを絡め合わせることに熱中する彼は、こっちすら向いていなかった。しかし、ある程度の知識なら持っている、と述べると、一度だけ真剣な視線を寄越す。

彼の注意は直ぐにサンデーに戻った。が、その意識が一瞬でも此方へ向けられたことに勇気付けられ、私は知っていることを話し始めた。

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