01. 異端者(1/37)



彼の胃袋は異界の門に繋がっている。そう思わずにはいられない。

つい先ほどまでは、山盛りの皿が四人掛けの机に収まり切らないほどに並んでいた。しかし今はそれがどこへ行ってしまったのやら。キレイになった皿が机の隅に山積みになるだけ。

机を挟んで座るのは、一人、二人…二人しかいない。私ーーナユ・ルクレシアーーを入れて二人だ。もう一度指差し数えてみる。一人、二人……やっぱりどうしても二人だ。

しかも記憶が正しければ、私は食べていない。え?それじゃあ口角に付いたタレはなにかって?ーーこれはアレだ。人があまりに美味しそうに食べていると自分も食べたくなる、という極自然な人間的欲求に従ったまでだ。しかし貰ったのは一口。他は全て、目の前の青年が平らげた。


「なんだよ」

「へ?」

「見てるだろ。さっきからずっと」

「ああ、お気になさらず!どうぞお食事を続けてください」

牢獄に入ってはこうも好きに食事できませんし、と笑顔を向けると、彼は顔を顰める。

「んな明るく言うことかよ」

「ジメジメして欲しいですか?首都までの道程は長いです。到着までに身体中からキノコが生えてきてしまったらとても困りますよ、お互い」

「もし人体が繁殖媒体になるならまずキノコがお前を選ばれない。安心しろ」

褒め言葉として受け取っても良いのだろうか。考えている間に、彼はウエイターにデザートを注文していた。ウエイターも驚いていたが、まだ食べるらしい。


とにかくよく食べる。それが彼の第一印象といってもいい。だが太ってはいない。むしろ痩せている。というか華奢だ。旅行用のコートの上から見る彼の体の線は細く、男性とは思えなかった。しかし薄っぺらいながらもそれなりに広い肩幅や骨骨した手は、異性のそれだ。声も、低過ぎず、とはいえしっかり男声だ。


間もなくウエイターがデザートを運んで来た。背の高いサンデーだ。色とりどりのフルーツの上に生クリームやアイスクリームがたっぷり乗っている。

まさか二人で食べられる様にサンデーを選んでくれたのだろうか。

ところが期待の眼差しは無駄になった。彼はひとりでサンデーを抱え込み、正面の私から守るように食べ始めた。指をくわえる他にない。

「自分も頼めよ」

「お金ないんです。サンデー代を魔道学協会の経費で落とすわけにはいかないでしょう?」

魔道学協会とは私の職場だ。政府直属の三大機関のうちの一つで、その名のとおり、魔法社会の今日の魔道を取り纏める。

主な仕事は魔道に関する法を定めた魔道憲章の整備士、および番人といったところだろうか。魔道憲章に問題が生じれば改訂し、違反があれば取り締まる。

私はその中でも危険魔法対策部という、前述の中では後者の『番人』に当たる部署に所属している。

[前△] [しおり] [▽次]

<<Back

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -