01. 異端者(35/37)

分かり切っていたことだが、この男、強い。

自分で言うのも何だが、私だって弱くはない。むしろかなり高等な魔道士だ。

王立魔道アカデミーは首席で卒業した。魔道学協会の職員採用試験には、たった一年で合格した。政府と学協が提携して実施している魔道検定なんて、最高位から二番目である、一級資格を取得している。

加えてイレギュラーな体質。魔道属性が二種類。

私が優位にたってもなんら不思議はない。

にも関わらず、男は息つく間もなく魔道攻撃を繰り出し、一気に私との間合いを詰めた。そしてトドメとばかりに、利き腕、すなわち碧い魔方陣を掲げている方の右手を抑え込む。

男は私の左胸、心臓の真上に、青く浮かび上がる円を突き付けた。


「確かにお前は強い。が、経験が浅い」

「ご指導、身に沁み入ります」

魔方陣から絶え間無く弾き出ている小さな静電気の所為で、肌がピリピリしている。

「フッ。この状況で減らず口を叩けるとは、さすが魔道学協会職員、とでも言っておこうか」

「そうですね。新人研修だけでも容易には折れない心身を持つよう鍛え抜かれますから」

「なるほど。だが潔く負けを認めることも大切だ。どうだ?この辺で手を打たんか?」

「はい?」

「俺の目的はお前をリアンのもとへ連れて行くことだ。大人しく着いて来れば手荒なことはしない」

なにが手荒なことはしない、だ。

大の大人が16歳の少女の利き手をひねり上げ、魔法陣さえ出せないようガッチリ固定し、さらにはちょっとでも動けば殺すと言わんばかりに魔法陣を突き付けて。

フードの下の薄い唇は、薄っすらと笑みを浮かべていた。余裕そうだ。しかし……

「このくらいで勝ったつもりになられては困ります」

忘れてはいまいか。私には左手の魔法もある。

否、男は忘れてはいないだろう。ただ、危険視していないだけだ。それゆえに碧い魔法陣だけを抑え込んだ。


彼の魔法は青。つまり水系統の魔法だ。それに対し、私の左手の朱い魔法陣は火系統。彼からしてみれば劣位に当たる。

同格である水系統の魔法、碧い魔法陣だけを視野にいれた戦法も、それを抑え込んだことも、賢いし、熟練者の選択と言える。

が、覚えているだろうか。自らの発言を。

『ナユ』は『強い』。


私は自由だった左手に改めて魔力を集約する。

右手は捨て、左手の魔法陣で戦うと決めた。だから"もう"手加減はしない。

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