01. 異端者(34/37)

最初の一撃は寸でのところでかわした。後ろに靡いたコートの裾だけがあと少しを避け切れず、チリッと焼き切れる。戦闘の邪魔だから脱ぎ捨てた。

まったく。会話の途中で攻撃してくるだなんて、つくづく礼儀のなっていない男だ。ウェスタリア王国紳士の隅にも置けない。

「クラアっ!新入り!危うく俺たちに当たるところだったじゃねえか!気を付けろっ!!」

「それはこちらの台詞だ。レミオル・ロレン…だったか?そいつの女を殺すなとは言われているが、生憎お前たちについては何も聞かされていない。精々死なぬように気を付けて、離れておくことだな」

真夜中の深い闇がごとしローブを靡かせ、男は冷徹に言い放つ。マティスと、その取り巻きは一気に青ざめ、慌てて路地の遥か彼方へと避難した。

逃避は正しい。この男、レミオルさんの女を殺さないつもりでいるらしいが、いまさっきの魔法攻撃からそんな遠慮は微塵も感じられなかった。諸に食らえば私でさえただで済まなさそうだ。

「これは私も本気を出す必要がありそうですね」

魔道において、魔法陣を組む際に使うのは利き手だ。しかし私はそれとは反対の手、すなわち左手をも掲げた。そして右掌に集めるのと同じように、左掌にも魔力を集中させていく。

間もなく、右手に掲げた碧い魔法陣の隣に、朱色の魔法陣が展開された。


やや距離のあるところで、マティス一行が驚嘆の叫びを上げるのが聞こえた。通常の反応だ。

が、一方、間合いを十分にとった先の黒尽くめは声色ひとつ変えない。

「ほう。やはり『ナユ』。その身に複数の魔法属性を宿す人間などこの世に二人といないだろう」

魔法属性二つ。普通であれば考えられないことであり、起こり得ることのないこと。

なんせこの世界の理に乗っ取れば、一人の人間につき、属性はたったひとつだ。なのに…

「驚かれないんですね」

「属性を二つ持つことに対して、か?」

「はい。貴方一体何者ですか?」

「何者でもない。ただ、最初から聞いていたのさ」

「聞いていた…?」

「ああ。それに…、」

男の魔方陣がふたたび眩く閃いた。

「あり得ない能力を持った者なら割りと近くにひとりいるからな…!」

今度は、青い光に真っ向から挑んだ。

前方に突き出したのは右腕、すなわち碧い魔方陣。

男の放った魔法攻撃をその中心で受け止めれば、魔方陣はまるで水面のごとく波打ち、青い光をまるまる呑み込んだ。

「魔力を二種類持つだけでなく、その各々の力の強さ、属性の純度の高さも並ではないとは。末恐ろしい奴だ」

「それはどうも」

今度は、掲げた両腕に力を込める。そして時間差をもってして、二つの魔方陣から攻撃を放った。

碧い閃光、やや遅れて朱い閃光が男を両側から挟み込む。男は迷わず碧は避け、朱を魔方陣で受け止めた。

朱い光は青い燐光で浮かび上がる魔方陣に弾け当たり、燻って消えた。

「貴方こそ。ずいぶん戦闘慣れしているようですね」

「それはどうも、だな」

互いに小手調べといったところだろうか。男が魔方陣を構え直し、私もまた、改めて次の攻撃に備えた。

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