01. 異端者(33/37)

マティスという男は虚勢を張るには大声を上げなくてはならないらしい。「相変わらず生意気な女だな!調子こいてんじゃねえぞ!」と、無駄に喚き立ててくる。その騒々しさときたら容易には無視し難いが、眉を顰めるだけに留めた。それよりも注意すべき点がある。

昨日の諍いの際、たしか魔法を使えるのはこのマティスという男だけのようだった。威力・属性ともに大した程度ではないくせに、魔法陣を振りかざしてやたらに威張っていた間抜けな姿は記憶に新しい。

反して先ほどラズに放たれた魔法。あの威力と属性の純度は、ほとばしった閃光から見て取れるとおり、なかなかのものだった。

さらにマティスの放つ魔法は淡い黄緑色だったが、先ほどのものは青。

普通、魔力は一人につき一つ宿る。生まれた時から型が決まっているという点では、血液型みたいなものだ。そしてその型を属性と呼ぶ。

つまり属性とは、各人一種類ずつというのが一般論であり、青い閃光がマティスから放たれたものとは考え難い。昨日のメンバーの中に他に魔道士はいない。となると、残るは一人だけである。

「先ほどの魔法は貴方のものとお見受けします」

「……。」

「私は友人を傷付けた者をただでは許しません。さあ、構えてください」

言いながら私自身、右掌に魔力を込めて魔法陣を展開させる。そしてそれを胸の前に掲げた。

見慣れた碧い光が視界を支配する。が、真っ直ぐと男を見据えた。

するといままで一切口を開かなかった彼がようやく言葉を発する。決して大きくはないものの、低く響く声だった。

「お前が『ナユ』か?」

「…はい、そうですが」

「そうか。確かに混じり気のない直し瞳。聞いてたとおりだ」

聞いていた…?一体誰に…

フードの下で、男が微かに笑った。唇が緩やかな弧を描く。

疑問は募るばかりだったが、彼が青い魔法陣をその手に掲げたために、胸の内の靄は邪念として追いやった。

「やる気になりましたか?」

「お前が『ナユ』なら捕まえる。リアンが探しているからな」

「リアン?」

「リアン・シルヴァスタだ。分からないか?」

そんなに訝しまれても、初めて聞く名だ。分かるはずがない。

この男、なぜだか『ナユ』『ナユ』と私の名を連呼するが、別の『ナユ』と間違えているのではあるまいか。同じ名前の者なんて、世界には何人もいるだろうし。

ところが、頭上に疑問符を量産する私を見て、男は逆に納得したように頷く。

「ふむ。仕方あるまい。『ナユ』ならば、最早リアンを知らん」

「はい?」

「そして『ナユ』ならば、強い。最初から全力で行かせてもらうぞ」

そう告げるが早いか、男は空を払うかのように、魔法陣を掲げる手を水平に動かす。宙を青が閃き、しかしそれを確認する間もなく、一閃の光が迫り来た。

[前△] [しおり] [▽次]

<<Back

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -