01. 異端者(27/37)

しばらくは幾度も棚の間を往復し、魔道具鑑賞を楽しんでいた。ところが太陽が冬空の天辺を過ぎるころ、さすがに退屈してきた。おまけにお腹も減ってきた。

私は相も変わらず客の来ない店を閉め(あらかじめサフィナさんの許可は取ってある)、コートを羽織る。そうしてなにか美味しいものを探しに、ラズとともに街へ繰り出した。


昼時ということもあり、街中は賑やかだった。

広場から伸びる大通りは人で溢れ、その両脇に立ち並ぶ色とりどりの店々もどこも活気に満ちている。なぜ『魔道具屋サフィナ』には誰ひとりとして客が来ないのか、むしろそのことの方が不思議でならないほどだ。

まさかあそこの店主は服を着ない変人だとか、妙な噂が立ってしまっているのではあるまいか。それとも昼間っから悪所通いする無愛想男が住み着いていると、避けられていたり…?

いろいろ想像してみるが、真偽を確かめる術はない。

まあサフィナさんが生活に困っているようには見えないし、あんなに素敵な魔道具だ。きっと売れるときには良い値で売れるのだろう。

ラズの胸元で陽光に煌めく碧い宝石を横目に、ひとり頷いた。

それにしても人が多い。ラズがいるため、オープンカフェにでも入ろうと考えていたのだが、どこも満員だ。それに歩いているうちに、およそカフェの軽食などでは満足できないほど、腹の虫が騒ぎ立て始めた。

「どうしようか?」

ラズに問うと、彼も空腹らしく、耳をへしょげてクウンと切なそうに鳴いた。

そこで、ちょうど街の中心、噴水の広場へと辿り着いた私たちは、目の前に現れた屋台で昼食を買うことにした。幸運にも屋台の品がボリュームのあるものだったのだ。野菜とチキンをたっぷり挟んだパンだった。ラズには、店主に特別にお願いした、骨付き肉をあげた。

立って食べるのはなんだし、足も疲れていた。だから手近にあったベンチに座って昼食を取ることにした。

「おいしいね」

はぐはぐと、無心で骨まで齧るラズに思わず笑みが零れる。彼の頭を一度撫でてから、自分も食事に意識を戻し、チキンがはみ出すパンを頬張ろうと口を開けた。そのときだった。噴水を挟んだ広場の反対側に、見知った銀髪を確認した。言うまでもなく、レミオルさんである。

「え?どうしてこんなところに?」

『ラブ・キャッスル』に行ったのではなかったのかと、ひとり慌てる。しかも彼は一人ではなかった。

彼の隣には女性がいた。なんと腕を組んで密着している。まるで恋人同士だ。

唖然とした私は貴重なチキンが落ちたことに気付かなかった。それをラズが、こちらを遠慮がちに窺いながら、結局パクリと食べた。

「何やってるの、ラズ!早くあそこの茂みに隠れるよ!」

彼らの進行方向には私たち。出会いたくないとか、そんなことを考える間はなく、ただ私は反射的に隠れた。先ほどまで座っていたベンチの後ろに、手頃な茂みがあったのだ。

脱兎のごとく茂みの影に飛び込み、ラズを急かす。彼は訳が分からない風ではあったが、ほとんど骨だけになった肉を大事そうに咥えると、私同様、草の影にしぶしぶ収まった。

ところが、私は間も無くこの安易な行動を後悔する。なんと彼らは、私たちの目の前のベンチまで歩いて来ると、そこに腰を下ろしたのだ。

出るに出れなく、息を潜めて二人を観察するしかなくなってしまった。


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