01. 異端者(25/37)

「他は?他にはなに聞いた?」

「他、ですか?」

レミオルさんはいまだ階段に視線を向けたまま、言った。

「まあいろいろですけど…」

サフィナさんと私の共通の話題というのは、いまのところレミオルさんのことくらいしかない。だから必然的に彼の話は多くなるというのはごく自然なことなのだが。

いつの間にか鋭利に細められた眼が、こちらをジッと窺っていた。

視線がまるで肌に突き刺さるようだ。チクチクする。早々に耐え切れなり、私は逃れるようにその場でしゃがんだ。

「さては…なにか聞かれたくないことでもあるんですね!」

傍らに貼り付いていたラズの前足を掴む。そしてピンク色の柔らかい肉球で、レミオルさんをビシッと指す。困った表情を浮かべるラズには悪いが、この息苦しい空気をなんとか打ち破りたかった。

しかし失敗。

彼は私同様その場でしゃがみ込み、顔を上げた。

「そんなのねえし」

さっきまでの身長差が取り払われ、まったく同じ目の高さから、真剣な瞳にまっすぐ射抜かれる。私は不自然に口角を吊り上げたまま、硬直してしまった。

と、不意に、彼の視線の鎖が緩む。

彼は立ち上がった。必然的に凄まじい角度で見下ろされる。それに嘲笑が加われば、憤慨しない人なんていないだろう。

「聞かれて困る過去なんて俺にはねえの。誰かさんと違って」

「な…っ!あなたが私のなにを知っていると言うんですか!」

この人はなにを言っている!決め付けないでいただきたい。私にだって聞かれて困る過去なんてひとっつもないです!

………と、言えたらどれほどスッキリするだろう。しかし残念ながら、だれにも知られたくない秘密のひとつやふたつはある。仕方ない。乙女だもの。

だから別の形で反撃させていただくことにした。

「なら遠慮なく聞かせていただきますが、なぜ魔道書になったんですか?」

まさかこれには答えられないだろう。昨日なんて『魔導書』についてはおろか、名前すら教えてくれなかった。それが今日になって、『魔導書』の魔法に手を出した理由だなんて、言えるものか。

勝利を確信し、心の中でほくそ笑んだ。ところが彼は不敵にニヤリと口角を吊り上げる。

「ある女のため」

なんだかいろいろ負けた気がする。

彼は人見知りだから、もしかしたら女好きではないのかもとどこか期待していた自分がバカだった。レミオル・ロレンはただの女好きだ。

言い知れぬ悔しさと屈辱を噛み締め、脱力した。そうして跪き、項垂れているところにサフィナさんが階下から上がってくる。

彼女は不思議そうに首を傾げた。きちんと全身を衣服に包んでいる様は、はじめて見た。

「なにがあったんだ?」

「別に」

サフィナさんと入れ違いに、レミオルさんは彼女の横を素っ気なく通り過ぎ、出掛けてしまった。

彼女が彼の背中に吐いた「顔に似合わずほっんとに可愛くないな、あんた!」という言葉に、激しく共感を覚えた。

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