01. 異端者(24/37)

◇◇◇

不思議な夢を見た。

誰かがずっと私の名前を呼んでいた。しかし姿は見えない。それゆえ誰なのか分からない。おまけにその人が遠くにいるのか、または近くにいるのかさえも全く分からなかった。

ただ、どこかで聞いた声だった。


「ナユ」

「はい!部長!いますぐ参りま…す?」

飛び起きると、目の前には端整な御顔。無機質に鎮座する灰褐色の双眸。しかし細い眉は歪められ、世に稀なる美し過ぎる呆れ顔を演出していた。

「誰だし『ブチョー』って。それよりサフィナも俺も出掛けっからサッサと起きろ」

コツンと、私の額を手の甲で軽くノックしてから立ち上がる。ギシッと、スプリングが鳴いた。

ん…?ギシ…?

彼が手を付いた先を見る。ふかふかしている。そこから少し視線をずらすと、布団を被った自分の身体があって…

「え!?私いつの間にソファーに移動したんですか!?」

「は?知らねえよそんなこと」

「えええ!?まさか夢遊病!?寝ている間にテクテク歩いて無意識にソファーまで行っちゃったの!?」

「そうなんじゃん?」

飄々と答えながら、レミオルさんはコートに手を通す。その傍ら……ではなく、私の横でラズは行儀良く座り、尻尾を振っていた。よほど私が気に入ったのか。はたまた意外に浮気性なのか。

それはさておき、レミオルさんとサフィナさんは出掛けるらしい。

サフィナさんがどこへ行くかは知っている。昨晩言っていた。魔道石のバイヤー・マーケットが今日別の街で開かれるらしい。馬車で行かなくてはいけないようで、服を着なくてはとぼやいていた。ぜひとも普段から着用していただきたい。

一方、レミオルさんの行く場所は知らない。だが全くもって心当たりがないわけではない。

「じーーーー。」

「視線とそれに伴う効果音が非常にウザいんですけどどうにかなりません?」

私の口調を真似、皮肉めいた視線を投げて寄越す彼。しかし気にしない。

「レミオルさんはどこ行くんですか?」

「お前さ、自分は聞け聞けうるさいくせに人の言うこと聞かねえだろ」

「『ラブ・キャッスル』ですか?」

「だから聞けよ」

彼の口角がひくつく。苛立っているのだろう。だが私は答えが欲しい。それを貰えるまでは瞬きもせずに彼を見つめた。

とうとう彼は堪忍した。酷く重たそうな口を開く。ガシガシと掻き回した銀色の猫っ毛の中に、ちょこっと跳ねた寝癖を見付けた。

「はいはい行きますよ『ラブ・キャッスル』。悪いかよ。けどお前には関係ねえだろ」

関係ないと言われてしまえばそこまでで、確かに私は彼が風俗街に通い詰める事については関係ない。なんであろうと彼を捕らえ、首都へと連れ帰る。なすべきことはそれだけだ。

しかしいかんせん。気になるのだ。悪いかよ。

「なんでそんなところへ行くんですか?人見知りのくせに」

「は?誰が言ったんだよ…ってサフィナか」

あの尼と、彼は尻目に階段を睨めつけ、舌打ちをした。


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