01. 異端者(22/37)

「まああんたをここに寄越すっていうレミの判断は正しいよ。あの辺りは治安が悪いんだ。とくに最近はね」

サフィナさんは緩く弧を描いた口元でマグカップを傾けた。コクリとひとつ、喉が鳴る。つられた訳ではないが、私も紅茶をいただいた。ほのかな甘さがストンと喉に落ちた。

「なにか事件でもあったんですか?」

「まあな」

彼女の視線がチラリとソファーへ向いた。しかしすぐに卓上へ戻される。

サフィナさんは肩まで使って大きなため息を吐いた。

「それにしてもやつのお人好しっぷりにはいい加減呆れるよ。自分を捕まえに来た政府職員なんて放っておけばいいのに悪漢に絡まれてるところを助けるわ、わざわざ待合所まで用意するわ」

目の前にその政府職員が座っているのは歯牙にもかけない様子だ。気遣われるのも困るが、さすがにその物言いには乾いた笑いしか出て来なかった。

「別にアタシは構いやしないんだけどさ、どうにも癪なんだよ。巻き込まれっぱなしってのも」

「癪、ですか?」

「そうだろ?やつはやたらに面倒ごとを持ち込んで、だがアタシには触らせない。アタシは、物事がやつを中心に過ぎ去って行くさまを、ただ見てるしかない。だが見ないこともできない。やつに場所を提供してやっている限りな。癪だろ?」

「癪ですね」

追い出してしまえばいいのに、とも思ったが、ひとたび悩んだのち、結局彼女に同意せざるを得なかった。

ふわふわの銀色の髪と、それと相反するかのように鋭利で温度のない灰褐色の瞳。華奢な肩に背負う旅人用の革コート、『魔導書』としての力…。

彼の割りと少年顏に(またの名を女顔ともいう)母性本能を擽られるというわけではないが、どこか放っておけない。追い出すだなんて、私も到底できそうになかった。

「そうだ。いつもなら台風の目であるやつの風に煽られているだけだが、今回はいっそのこと暴風域に飛び込んでみようか」

「と、いいますと?」

「あんたを思い切りもてなしてやってはどうだろう?やつを捕まえにきたあんたを、客人のように」

「はい?」

つまり、すでに私は暴風域圏内…?

あながち間違ってはいないのだろうが、改めて認識するとげっそりした。ただでさえ部長という名の超巨大台風にこうして遠い地へとぶっ飛ばされてるいる現状なのに、その先でも嵐に遭うなんて……。

首都にいる親愛なる友人へ。秋は去り、木枯らしの身に沁みる季節となって参りましたが、いかがお過ごしでしょうか?お元気でお勤めに励んでいることでしょうか?ナユは………一刻も早く帰りたいです。

「どうした?遠い目をして」

「いえ、なんでもありません。ただ少し風に当てられて…」

「風?窓は閉まっているが」

いえ、そういう肉体的なことではないんです。心なんです。いや、でも吹き荒れる暴風に晒され、実際身も心もボロボロと崩れ去りそうです。

だがラズのこちらを気遣う表情に気付き、私は慌てて大丈夫と答え直した。

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