01. 異端者(20/37)

サフィナさんは頭を抱えていた。難しい話はしていない。ただ私の存在は、レミオル・ロレンを居候として住まわせるサフィナさんにとっては頭痛の種となるものだった。

「つまりなんだい?あんたはレミを捕まえにこの街へ来たってわけかい?それでレミは、自分を捕まえに来たやつをわざわざ居候先に案内した…と」

「はい。そうなりますね」

美しい見掛けとは裏腹に、彼女は言葉遣いも態度も荒い。まるで男の人だ。長い前髪を掻き上げる気怠げな仕草が妙に様になっていた。ただし、服を着ていたらの話なのだが。

あんな変なやつは今まで見たことないと、サフィナさんは声を張り上げるが、私は苦笑するしかなかった。いまのところ、彼女だって負けず劣らず変わり者である。

「アタシにどうしろっていうんだよあいつはあっ!」

そう苛立たしげに言い放って綺麗な直毛の長髪を乱暴にかき乱すが、私に言えることは、とりあえず洋服を着てはどうかと、いうことだけだった。

試しに提案してみると、それもそうだなと、ケロリと答えたサフィナさん。店の奥に入るついでに、こんなところで立ち話もなんだからと、中へ招待してくれた。私は有難くそれに応じ、サフィナさん、そしてラズに続いて扉をくぐる。

「随分懐いているようだな、ラズ。そいつすごく人見知りなんだぜ?」

「そうなんですか?」

「ほらよく言うだろ?ペットは飼い主に似るって」

確かにそういった話は耳にするが、どうだろう。ラズがレミオルさんに?

そもそも彼は人見知りなんかではなかった。初対面の相手のつむじをあんなにツンツン突つく人見知りがあるものか。

「出会って間もないときはぜっんぜん喋らないしさ、こっちの質問にも一切答えない。存在丸ごと無視。おまけにあの仏頂面だろ?」

「はい分かります」

そんなに言うほど喋らなかったろうかと怪訝に思いながらも、最後の仏頂面には大きく首肯した。仮面でも被っているのではというほどにあのようにふてぶてしい顔を長時間ぶら下げていられる人間を、私はあまり知らない。

「けどさ、悪いやつじゃないんだよ」

「はい、それも…分かります」

前方を見据えるサフィナさんの口元が僅かばかり綻んでいるのを見て、私もつられて笑顔になった。ラズまでも、ハッハッと赤い舌を垂らし、口角を釣り上げていた。


扉の奥には狭い階段があった。サフィナさんは十二分に細いけれど、それでも前を行く彼女を見れば、ひと一人やっと通るほどの幅しかなかった。おまけに段差は急だ。階段というよりは、梯子に近い。そのためスーツケースを持って登るのは困難だった。ラズが助けてくれなければ運べなかっただろう。彼は重たいスーツケースを、器用にも頭で支えて手伝ってくれた。

「一階は店。主な生活圏は二階と三階だよ。で、地下が仕事場。魔石を割ったりくっ付けたり、魔道具を作るんだ」

「ここで作ってらっしゃるんですか!?」

「そうだよ。アタシは既に形になって売られている既成の宝石を使うのが嫌でね。原石の魔石を買って来たらあとは全部自分でやっているんだ」

階段の最後には、先に二階へ上がったサフィナさんがスーツケースを引き上げてくれた。

私からラズを退けてくれたときにも思ったが、重たいものを随分軽々と持ち上げるものだ。痩せた身体に似合わず、案外彼女は力持ちなのだろう。

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