01. 異端者(13/37)

いったい彼に何があったのだろう。こんな若くして人生を棒に振るような取り返しの過ちを犯してしまって…。

いや、若いからこそなのだろうか?『若気の至り』なんて言葉はよく聞く。まあ、同い年の私が言うのもなんなのだが。


まんじりと見つめれば、おそろしく端整な顔が見つめ返してきた。無表情で、まるで人形のように無機質な顔は、どこか冷たさを漂わせる。しかし、なるほど。その中にも年相応のあどけなさがところどころチラついていた。

「あれ?おとなしいじゃん。『つむじはダメですー!』じゃ、ねえの?」

分かっているなら辞めて欲しい。いまだ頭上に乗っていた骨張った指をやんわりと退けた。

「ひとつ、聞いてもいいですか?」

「ヤダっつって辞めるのかよ」

見るからに億劫そうだ。しかし、拒絶の姿勢は取らず、私の言葉を待ってくれている。

多少聞きづらくはあったのだが、視線で促され、口を開いた。

「どうして異端魔法なんて使おうと…、『魔導書』になんてなろうと思ったんですか?」

彼の個人的事情に立ち入るべき立場を、ましてや権利など、私は持ち合わせていない。すべきことはただひとつ。彼を魔道学協会本部へ連行すること。にも関わらず問い質した。

軽薄だと思う。しかし抱いた感情は興味。そうとしかこの時の私には言えなかった。

ゆえに彼の反応も当然だ。

「お前には関係ねえだろ」

灰褐色の双眸は冷ややかだった。いや、冷ややかどころの話ではない。まるで氷の刃だ。その切っ先を突き立てられたように、肌が引き攣っていた。

さらに、関係ないなんて。そんな言われ方をされてしまえば、そこまでだ。掠れた声で小さく謝った。


謝罪の言葉は果たして彼に届いたのか、よく分からない。反応を窺う勇気がなかった。しかし、足元の煉瓦の染みを無意味に見つめる私の頭に、無骨な手が、トスンと乗った。『乗った』というのは本当にそのまま文字通り乗っただけで、それから動かない。

先ほどの冷たい視線は何処へやら。いま、頭上に居座る重みから伝わってくるのは温もりだった。ゆっくりとゆっくりと、染み込んでくる。

なぜたか酷く落ち着いた。それが離れてしまったとき、名残惜しさを感じてしまうほどに。

「じゃ俺行くから」

「え?どこに?」

突然切り出され、目を丸くしてしまった。すると彼は苛立たしげに「だから…」と前方を指差した。

真赤な城の扉は開け放たれている。しかし中は暗闇に包まれていて見えない。太陽はまだまだ高い位置でご健在なのに、だ。

まるで獲物がひとりでに口の中に入って来るのを身を潜めてジッと待つ、深い森に住む魔物のような恐ろしさを感じた。

「ダメです!」

彼が同い年だと判明したあたりから今の今まで、すっかり彼の目的なんて頭からすっぽ抜けていた。しかし改めて彼に向き直り、力一杯宣言する。が、お前の許可なんて求めてねえ、と一蹴された。

確かに彼にとって私は所詮『関係ねえ』存在。ならば世間一般的な認識を盾にすればどうだ。

「不健全で」
「健全です」

一刀両断された。しかも最後まで言わせてもらえなかった。


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