01. 異端者(10/37)

第三者として乱入したように見えた『魔導書』だったが、わずか数分足らずして、見事その一身に二者の怒りの矛先を集めていた。

一方は、言うまでもなく、彼の後方で腸煮えくり返している私。そして他方は、リーダーを呆気なくふっ飛ばされてしまったチンピラ共だ。

「どうやってマティスさんに攻撃した!?」

「魔法を使ったのか!?」

「こいつも魔道士か!?」

憤怒の形相の男たちだったが、彼は煩わしげな視線を寄越し、鼻を鳴らしたただけ。当然だろう。超能力でも存在しない限り、魔法以外の何で遠方から衝撃波を送れるだろうか。魔道士なのか?って、魔道士に決まっている。疾うに気付いていたが、男たちはバカ者揃いらしい。

とはいえ、魔道士か否か、という質問より、さらに一歩踏み込んだ問いであれば、私も大いに気になる。

『魔導書』となってしまった彼には魔力がない。綺麗さっぱり全て失っている。自分の魔力と大気の魔気を要する技術、すなわち魔法が使えるはずがないのだ。

しかし彼は使った。この目で見た。もし本当にこの世に超能力なるものが存在しない限り、彼が魔道士であることは確実だ。いままさに、私は異端である古代魔法を目の当たりにしたはずだった。

「何?」

背中に突き刺さる視線に気付いたのか、彼が振り返った。そして私が、どうやって魔法を使ったのか問い掛ける前に、

「言わねえよ」

酷く億劫そうに前髪を掻き上げ、前方へと向き直った。どうやら男たちはそれを自分達への返答だと勘違いしたらしい。驚くべきチームワークで捲し立てる。

「何が、言わねえよ、だ。スカしやがって!」

「いちいち癪に障る男だなあ」

「女みてえな顔しやがって!」

「本当だ!こいつすっげえ女みてえ!」

「ひょろっひょろだしよ!」

「オカマなんじゃねえの?」

「女男だ!」

「ギャハハハ!女男!」

ギャーギャー騒ぎ立てる男たちに対し、顔色ひとつ変えずに沈黙していた彼。しかし何やら琴線に触れたらしい。真っ黒な顔で殺気丸出しにする彼に、なぜか私が睨まれた。まるで狼に睨まれた小リスさながら跳ね上がってしまったのは仕方のないことだと思う。

「おい。こいつら殺っても良いんだったよな」

「そんなことひとっことも言った覚えはありません!」

異端魔法だけでも政府からお咎めをいただいているのにさらに罪を重ねる気かこの男!とにかく大人しくしていてくださいと、必死で彼を止めた。

とはいえ、いい加減に面倒だ。足止めを食らってから何分経ったろう。

もはや彼らの目的も忘れた。そもそも聞いてなかったっけ?別に気にもならないが。

それよりも早く、この無意味な諍いに終止符を打ちたかった。

「仕方ありません。本当は権力を振りかざすような真似はしたくなかったんですけど…」

身長差ゆえ、私は彼の背後にすっぽり隠れていた。だが忘れられていたわけではない。言葉を発すれば、男たちは興味深げに覗き込んできた。その眼差しに応え、歩み出る。そして、羽織っていた真っ黒なコートを仰々しく脱ぎ捨ててみせた。

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