01. 異端者(8/37)

魔道協会では、魔道士職員が公共の場で魔法を使うにあたって、いくつかの規制が設けられている。その一つが『民間人への魔法攻撃を禁ずる』だ。ところがこの項目には続きがある。

『ただし相手側より魔法攻撃を受けた場合、正当防衛としての魔法攻撃を許可する』

男が魔法攻撃をしてくれば、此方も魔法を使わざるを得ない。

仕方ない。正当防衛だ。


「マティスさん、やっちゃってくださいよ!」

「痛い目見せてやりましょうよ、マティスさん!」

「あ…ああ!」

魔法陣を向けられているにも関わらず私があまりに平然としているからか、男の声が若干上擦った。しかし最後には力強く魔法陣を体の前で構える。

「俺たちに逆らったことをあとでじっくり後悔するんだな!」

男は声高に宣言した。だが本当に後悔するのはどちらだろう。私は小さく漏れた笑みを隠すために俯いた。


さて、これから始まるのは極めてつまらない魔法の応酬となる。いや、応酬とは言わない。繰り広げられる魔法攻撃は私の一方的なものとなるだろうから。

私はまだ巨人男に手首を拘束されている。動くことは出来ない。端から見れば、圧倒的に不利な状況に見えること間違いなしだ。にも関わらず、なぜ大口を叩いているのか。その理由は男の魔法陣にある。


魔法陣とは、例えると鍋のようなものだ。調合するものは自分の『魔力』、そして大気中に流れる『魔気』。それらを混ぜ合わせることにより、双方が互いに反発し合い、そこからエネルギーが生まれる。これが魔法だ。

当然鍋となる魔法陣が小さければ、魔法の規模も落ちる。さらに、各々が持つ魔力の『属性』が薄ければ、威力も落ちる。

目の前の男の場合、魔法陣が小さい。手のひらより一回り大きいくらいだ。高い魔法技術を身に付ければ、陣の大きさを意図的に操ることはできるが、彼がそれほどの技術を持ち合わせているようには見えない。

それに、属性の濃度を示すのは魔法陣から溢れ出す光の色なのだが、彼のものは限りなく白に近い黄緑色だった。

予想されるのは予定調和で退屈な戦闘。ならばサッサと終わらせてしまおうと、巨人男の腕をすり抜けた。

大柄な男だったから機敏な動きは苦手らしい。隙を付いて少し素早く動けば、すぐに拘束は解かれた。

あとは利き手で魔法陣を展開するだけ。巨人男から逃れた勢いのまま、一歩、二歩と前方に飛び出し、右腕突き出した。

魔力を込めるのは右掌。間もなく見慣れた碧色の光が、鮮やかに辺りを染め上げた……のだが。それと同時に予想外の事態が起きる。

魔法陣を構えていた男がひとりでに真後ろに吹っ飛んだ。

ちなみに私はまだ何もやっていない。男が自分の放った魔法の反動で飛んで行ったわけでもない。ただ男が吹っ飛ぶ直前、微かな魔力と魔法陣独特の光を背後に感じた。

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