01. 異端者(7/37)

苛立ちが最高潮に達する。手首は痛い。『魔導書』は見つからない。私は思わず叫んでいた。

「もういいです!足で探します!」

ダメだ。集中できない。そもそも魔道感知とは極めて繊細かつ難易度の高い技だ。こんな騒々しい場所でできっこない。

風貌は分かっている。いまから街中走り回って探せばいいんだ。それにあの美形は相当目立つはず。人に尋ねながら辿れば、見つかる可能性もグンと上昇する。

「というわけで放してください。いま忙しいんです」

「はあ!?物分りの悪い女だなあ。指図できる立場じゃねえんだよ、お前は。大人しく着いて来いよ」

「物分りが悪いのはあなた達の方で、…アアっ!」

突然右腕を激痛が襲った。私の手首を掴んでいた男が、あらぬ方向に腕を捻りあげたのだ。思わず悲鳴を上げてしまった。

「お?チビのくせに良い声で鳴くじゃねえかよお譲ちゃん。もっと聞かせてくれよ」

周囲が沸いたことに気を良くしたのか。男は私の腕を捻り上げる手に、さらに力を込めた。

腕が折れる。いや、もげる。しかしなにがあろうと絶対にこれ以上声を漏らすまいと、唇をきつく噛み締める。口内に鉄の味がじわりと広がった。

「おっと、それじゃあつまんねえんだよなあ」

気付けば目の前にリーダー格の男がいた。名はマリスだったかマーティンだったか…いや、どうでもいい。とにかくそいつが身を屈め、私と目線を合わせると、ガサガサした親指の腹で私の唇をなぞった。

目の前のニヒルな笑みに虫唾が走る。しかし動けない。まだ巨人男に手首を拘束されている。

「俺さ、実は魔法使えるんだよね」

唐突にマロンだかマリオだったかが言った。いや、マルティンだったかもしれない。まあ、どうでもいいが…。

「もしこの距離で、ココに魔法撃ちこんだら、どうなると思うかい?」

マレイだったかマーカスだったか、そいつは指の先でトンと私の右胸を突いた。すなわち心臓の上。

バカか、と思った。この距離で、しかも心臓の上なんかに魔法が直撃すれば、一般人相手であれば命に関わる。そんなこと幼い子供でも分かるだろうに。


仲間たちは声を揃えて男を囃し立てた。男は彼らの調子に合わせ、右手を高く掲げる。見る見るうちに、彼の手の平の前には魔法陣が展開された。

「どうだ?怖いか?」

男は私の目の前に魔法陣を翳す。昼下がりの太陽の下の燐光は妖しげで、しかし同時に酷く間抜けでもあった。

怖くなんてない。むしろどうぞやってくださいくらいの心持だった。

これは強がりでもなければ自殺願望でもない。実は魔道学協会の魔道士職員ともなれば、この程度で死んだりはしないし、それに、男に魔法を使って欲しいのには別の理由があった。

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