01. 異端者(5/37)

◇◇◇

彼を尾行していて分かったこと。

彼はとにかくモテる。

通り過ぎれば、女性が振り向く。市場を覗けば、女性が集まる。止まっているときでさえ――広場の噴水の縁に腰掛け、休憩していたのだが――遠目に熱い視線を送る女性は少なくなかった。


確かに彼はかっこ良い。否、綺麗だ。

スラリと伸びる手足はまるで舞台役者。女性も羨むきめ細やかな肌はビスクドールを連想させた。

その反面、涼しげな二重の吊り目は、灰褐色の瞳も相まって冷徹な印象を与える。おまけに絶えずぶら下げているのは仏頂面だ。

ところが鼻梁の通った顔立ちは、その冷たさまでも美の一端に見せるほど、整っていた。

年頃の娘だけでなく、あらゆる世代の女性たちが見惚れているのも分かる。なんていうか人間としてキレイだ。下手したら男の人だって彼に見惚れかねない。冗談じゃなく、そう思う。

それにしても彼はどこへ向かっているのだろう。初めてこの街に来た私には皆目検討も付かない。

目的地はしっかりしているらしい。確かな足取りで細い路地を進んで行く。しかし右に左に、左に右に、次が右で、また右、右、右、今度は左、右、左と……曲がる回数があまりに多すぎる。

来た道を戻っているのではないかと、何度か首を捻った。しかし考えている暇はない。ついに彼が走り出したのだ。

私は絶対見失ってやるものかと躍起になっていた。もちろん周囲の変化にも気付いていない。

先ほどまでは均整のとれた石造りの建造物が道の両脇に綺麗に立ち並んでいた。ところが何時の間にか、薄汚く寂れた店や、半壊しかかった廃屋が目立つようになってくる。街並みを彩る色は、白から灰色に変貌を遂げていた。

普段であれば絶対に立ち入らないような地区だ。間違って立ち入ったとしてもすぐに出て行く。

しかし今はわき目も振らず、彼の背中しか見ていなかった。そんな折、突然背後から男の声があった。

「おいお嬢ちゃん。ちょっとだけいいかい?」

随分呼び止められることが多い日だ。ところが立ち止まることはできない。彼が行ってしまう。邪見にするのは悪いと思ったが、相手をよく見もせずに誘いを断った。

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