探し求めるもの(神威+阿伏兎)
 



「言った筈だ。弱い奴に用はないって」

物心がついた頃から幾度となく戦闘を交えた。どんなに闘っても満たされることのない血。潤いを知らない魂。


どうすれば俺の血は満たされる?
どうすれば俺の魂は潤う?


答えは既に見えていた。


今日もまた上からの命で任務に向かう。
戦艦春雨に乗り込んで早数時間。壁に寄り掛かり窓の外の世界を見る。
一面の黒に浮かぶ多彩な星。俺の心とは全く反対の輝かしい光を放っていた。


どうせまた骨のない奴との闘い。
もう飽きた。やる気も出ない。


星を眺めながら憂鬱な気分に浸っていると一人の大柄な男が近づいてきた。

「ねぇ 阿伏兎。この世界のどこかに俺より強い人間は存在しないのかな」

俺の隣に来ると同じ様に壁に身を預けた。

「無茶言うなよ。俺たちゃ戦闘部族夜兎だ。互角に殺りあえる人間なんているわけねーだろ」

「…つまんないの」


本当につまらない。
俺の戦意を心の底から滾らすことの出来る奴に会ってみたい。


流れる景色を見ていると、戦艦から少し離れた所にある一つの惑星に目が留まった。

「ねぇ あの青い惑星は何?」

「あれは地球。侍の国だ」

「あれが地球…。強い奴はいるのかな?」

胸が高鳴る。


―…侍の国。

そこには強豪な者達が数多にいる、そんな気がした。俺の直感がそういったんだ。信じてみない手はない。


「さぁな。…ってオイ!! 何する気だ!?」

操縦士を押し退けハンドルを掴む。

「侍の国に行く」

「ちょっと待て!! 任務はどうすんだ!? 上からお叱りくらう…」

「阿伏兎。例えお前でも邪魔をするようなら殺しちゃうぞ」


誰にも邪魔はさせない。
こんな感じは初めてなんだ。


笑ってはいるが、その笑みから漂うは威圧感。蛇に睨まれた蛙。改めて言葉の意を知る。

「…とに。末恐ろしいガキだぜ」

諦めがついたのか、溜息をつきながらも渋々団長の命に従う。

あのまま邪魔をすれば確実に殺される。阿伏兎はそれを直感で読み取った。だから退いた。


なんだかんだ言ったって最後には俺に従う阿伏兎。だからこそ俺はそこに付け込む。隙を見せた方が悪い。

でもそういう奴が居るのもなかなか悪くない。色んな意味で。

「じゃあ行くよ」

地球に向けて進路を変え、発進させる。

「墜落だけはよしてくれよ」

「俺、操縦免許持ってないから保証は出来ないな」

「…ちょ!! 俺に代われェェエ!!」

阿伏兎ハンドルを執ろうとした時…。

ポチ。

快音と共に船内のライトが瞬時に赤色に変わり警報音が鳴り響く。

「あ。ごめん。緊急用の着陸ボタン押しちゃった」

「何やってんだァァア!!!」

『着陸の出来る惑星を発見しました。緊急着陸します』

アナウンスが流れる。
そして―…

ガクン、と戦艦が揺れたと同時に体が宙に浮いた。勢いよく天井に押し付けられる。痛みが体を駆け巡った。

戦艦春雨落下中。稀とない姿。

「浮遊力って凄いね。楽しいな」

「楽しんでる場合か!どうなんだよ コレ…」

陽気な俺とは裏腹な阿伏兎の脱力感。
でもこんな感じだからこそ毎日をやっていける、そんな気がする。

「阿伏兎」

「あん?」

「これからもよろしくね」

今の気持ちを率直に伝えた。伝えたかった。

「…んだよいきなり。気持ちわりィ」

「嫌?」

「面倒なモン抱えたまま仕事出来るほど器用じゃねーよ、俺ァな」

呆れながらも笑みを見せる阿伏兎。俺も静かにそれに応えた。


もう少しで地球―…、侍の国に着く。そしてようやく俺の血は満たされ魂は潤う。

ねぇ 侍さん。簡単に殺されたりしないでね。俺を愉しませて。俺の戦意を奮い立たせて。


ズドーン!!

鈍い音を立てて戦艦春雨無事(?)侍の国に到着。扉が開く。

まばゆい光と共に視界に入る着物や袴姿の男達。それに黒い服に身を包み剣を携える男達。

俺の心は高鳴りを増す。


この感じを待っていた。
ずっと捜し求めた。
そしてやっと見つけた。

―…侍の国。
それは俺にとって最高の地。
活力満ち溢れる者達の集まり。
闘うことを己とする。

言葉は要らない。
ただ拳を交えるだけ。



さぁ愉しい殺し合いを始めようか。


END



back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -