灰色の世界。にじむ赤。血の臭い。腐敗臭が立ち込める。
辺り一面の死骸。それらの中には志を互いに交わした浪士の姿も数多。
座り込む。否、崩れ落ちた。
無理だ。もう歩けねェ。
押し寄せる絶望。悲鳴をあげる体。虚無感に覆われる心。体が、心がどんどん蝕まれていく。
緊迫の中、志を失う事はなかった。取り留めた。それでも、かなり不安定な状態には変わりない。
虚ろな目で死骸の中に埋もれる同志達の姿を一目すると、小さな呟きを漏らす。
何故てめェらは死んだ?
絶対死なねェって…、生きてまた太陽の下を共に歩くってあの日誓ったはずだろ?
なのに何故死んだ?
問い掛けても届くはずのないこの想い。答えなど返ってくる筈もない。判っていた。だけど認めたくなかった。
なぁ。てめェらはこんな非道な人生で朽ち果てて楽しかったかよ?満足したのかよ?
何一つとして心が満たされたことなんてなかっただろうが。そうだろ?
なら起きて立ち上がって人生に這いつくばらねェでどうすんだ。てめェの人生はてめェの手で描いていくモンだろうが。
それは自らにも言い聞かせていた。そうしなければ何かに押し潰されそうで。心を失ってしまいそうで。
抗う意味を志を保つために。
…答えろよ。何時までこんな所に留まるつもりだ。
…答えてくれ。
「…っ」
「高杉」
俺の名を呼ぶ声。先立つその背中。身を血に染める白い鬼。
――白夜叉。
「判っている」
「俺もお前と一緒だ」
「…」
「だがよ高杉、こんな所で止まってちゃいけねんだ」
言葉を発しながら近づいてくる。
「俺達は生き残った。コイツらの力が、助けがあったからこそ護れた命だ。なら俺達は死んだ奴らの分まで生きてかねーといけねェ。進んでかなくちゃいけねェ。それが俺達の出来るアイツらへの唯一の恩返しじゃねーのかよ」
俺の目の前で止まる歩。見上げる。
…その目。どんなことがあろうと決して揺らぐことのない光。魂を宿す。
気に入らなかった。今も昔も。
なのに今はその目に救われている。屈辱な筈なのに何故か清々しく思える。
「おら、行くぞ」
心を失いかけていた俺にてめェは手を差し延べた。
「…るせェ。調子のんな」
手を払い除ける。
必要ねェ。俺は立てる。
「んだよ。可愛くねーな!」
立ち上がった俺の姿を見て白夜叉は口を尖らせる。
「ボサッとすんな。置いてくぞ」
てめェが俺に光をくれた。
「チッ。どっちがだよ。心配して損したぜ」
「銀時」
救われた。その光に。
「あんだよ」
「…てめェが道を踏み外しそうになったら俺が真っ先に切ってやる」
次は俺の番だ。
「高杉ー…」
「……ありがとよ」
紡がれた柄にもない言葉。それは無意識の内に発せられていた。
思いの寄らない言葉に唖然とする白夜叉を尻目に、俺は一歩ずつ歩みを進める。想いと共に。
守ってみせる。
救ってみせる。
もう何も失わせねェ。これ以上無駄な血を流させねェ。俺は俺の人生を生きる。
アイツらの意志を継いで、この腐った世界をぶっ壊して平和を手に入れてみせる。
だから銀時。
もう少しだけ俺につきあってくれ。力を貸してくれ。てめェのその光が必要なんだ。
足を止め後ろを振り返る。
「行くぞ 銀時!」
もう迷わない。
「おぅ!!」
俺は必ず生きる。アイツらの分まで生き延びてみせる。世界の平和を拝むまで何処までも食らい付いてやる。
これが俺の新しい誓いだ。
END
back