Run forward!2





沖田と斎藤が臨戦態勢を整え教卓の方へと向き直るとそこには――



「はい注目ー。お前らちゃんと話聞いてたかー?
さっき理事長から紹介があった風間千景君だ。今日一日このクラスと一緒に行動するから皆仲良くなー」

白を基調とした学生服に身を包まれた、かつて新撰組と死闘を繰り広げた鬼がそこに佇んでいた。
なんで、よりにもよってこのクラスなの!?
沖田と斎藤の困惑を余所に、ここにいるのが不本意だという風間は教師からの説明を聞き流し、ざわざわと浮き立つ今日一日だけのクラスメイト達が目に入れた。
中でも微動だにしなかった者は教卓側から見れば目立ち、暇つぶし程度に視線を移してみると。

ほぉ、と確かに暇つぶしにはなるなと口角を引き上げ確かに笑った。











「なぁなぁ、なんでアイツが此処にいる訳?」

人目を気にするようにこそこそと平助が斎藤に耳打つ。ちらりと横目で確認しても、見間違いではなく僕らのクラスに風間千景がいる。
そのバックには生徒達が球を投げては打ち返し、四角い白ベースまで走っている。
審判役の先生がツーアウト!とカウントをとっている。
見るからに場違い、何とも日差しが似合わない男なのだろうか。

「生徒交換、ということで俺たちのクラスから居なくなった分、奴が来た」
「へぇー鈴鹿学園に行ったのって一君たちのクラスの奴だったんだ。んで、なんでアイツが此処にいる訳?」
「全クラス対抗、ということでお前のクラスと対戦することになったからだ」
「それも偶然なのか仕込まれたのか分からんねーよなぁ…ってそうじゃなくて!!ッ痛ぅ!」

クラスメイトが試合に集中している中、少し離れた処でいつもの4人(男3:女1)が集う。
平助がグシャグシャと髪をかき乱し癇癪手前の状態になっており、それが鬱陶しくてつい平助の頭を叩いてしまう。

「なんで生徒交換で風間が来たのかって事でしょ。それはこっちが聞きたいよ」
「風間さんが自ら望んで来たんでしょうか?」

ターゲットと思われる本人はどうしてだろうと首を傾げている。
狙われている自覚がないのか、のほほんとしている千鶴に対し「何を呑気に」と気が立っても可笑しくはないのだが。
だが、それが雪村千鶴のカラーであり可愛いと思ってしまう部分である。


風間は前世で千鶴を攫おうとした前科があるため油断は出来ない。
鬼ではなくなったとはいえ、あの男が何を考えているのか想像も出来ないし、したくもない。
また千鶴を狙うのであれば自分は全力で阻止するだけだ。
教室から風間に会ってから、僕たちの立てていた計画は変更せざるを得なくて焦っていた。

立てていた計画の条件は、風間に見つからないこと。
千鶴を風間に会わせないという一番の安全策を突き通すなら、会う前に隠してしまえばいい。
しかしそれを実行するために僕らが居なくなれば、僕らに不信感を抱だき変に勘探りされてしまうだろう。

そのため計画の練り直しを必要としている間、風間はあろうことか僕の隣までやってきて。
「貴様らもこの学園にいたとはな」と念頭一発に挨拶をしてきたのだ。
初対面と言いたいところだが世を経ても風間は風間であると名札をおとし、僕の隣の席に座る始末(隣が鈴鹿学園に行った生徒の席だった)
僕と一君の注意はすっかり風間へと向き、その間担任が説明していた内容なんて頭まで入ってこなくて。
その説明さえ聞いていればこんな状況にならなかったのにと後悔しても後の祭り。
クラス対抗で対戦するのは千鶴のクラスだと、グラウンドで本人に会ってようやく気付いた。

結局は千鶴を隠すも、風間を見張るも、出来なかった為こうして千鶴の傍をつかず離れずにいる。
だから平助の頭から気持ちいい音が鳴ったのも、叩いた手がジンと熱いのも、全ては風間のせい。



その風間は勝負事への興味もなく悠々とこちらへと近づいてくる。
沖田は千鶴をその背に庇い、他の2人も立ちはだかるようにして構えを取った。
何度見ただろうその光景に千鶴は沖田の服を掴む。

「くく、そう身構えずともよい。今回は何もする気はない」
「信用できん。どうしてこの学園に来た、理由を言え」
「理由か、強いて言うなら鈴鹿が何か企んでいたようだったからな」

風間はこちらを見て、なるほど、と一人納得をし千鶴と沖田へと手を差し伸べた。
僕らはそれに一層警戒を増す。
フッと笑う風間は何が可笑しいのか、僅かに弾んだ声で誘った。

「どうだ、雪村。鈴鹿学園へ来ぬか?なんならその男と共にでもよい」

誰が予測しただろうその言葉に千鶴は考えるそぶりも見せず、ふるふると首を振った。

「お千ちゃんがいる学園であっても、私は皆がいる学園から離れるわけにはいきません。」

もう二度と離れたくないと沖田の服を強く握りしめる。
その千鶴の想いを察し沖田は嬉しい半面、複雑な気持ちになった。
どうせなら僕がここにいるからって言ってくれればいいのに、という小さな嫉妬。
ひとまずその感情は置いておき、問題は油断ならぬ目の前の男だ。

「そうか。ならば鈴鹿にそう伝えておこう」
「妙に聞き分けがいいんだね、まだ何か企んでるの」
「疑いたいなら疑うがいい、どちらにせよ俺としては収穫があったからな」

そう言い残し去っていく背を僕らは見続ける。
以前のように忽然と姿を消すわけでもなく、遠ざかる姿に奴も人になったかと安堵し警戒を解いた。

「かーぁ!結局なんだったんだよアイツは!?」
「今更喚いても仕方あるまい」

またも癇癪を起こしそうな平助を一君がたしなめている。
計画変更、と隙を見て僕はそっと千鶴ちゃんの手をとった。
突然の温もりにびっくりした千鶴は「沖田さん?」と返すが、途端その手を引かれ自然と走りだした。
先導する沖田の足は止まらず、風間のように後の2人を残していく。

「お、沖田さん!?どこ行くんですか!?」
「どこって、2人にきりになれる場所っ」

一君には許可とってあるから、と笑いかければ千鶴も恥ずかしそうに微笑んだ。
すると先ほどまで抵抗のあった手は軽くなり、2人揃って何処ぞへと駆ける。
途中に僕らの名前を呼ぶ土方さんの声を聞いた気がしたけど、時折二人で笑い合いながらただひたすらに走った。








(総司と千鶴はどこへ行った!?)
(へっ?…、!!あの二人いつの間にか居なくなってるし!)
(土方さん、ご心配なさらずに。おそらく二人はサボりかと)
(サボりだと?風間に連れ去られたわけじゃないんだな!?)
(はい)
(そうか、なら良しと………って、総司のやつ千鶴を巻き込みやがったなァ!!)



END.

2011.5.7




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