Run forward!1




※微妙に長編設定を引き継いでおります。
つまりSSLとは違った転生学パロ。長編読まなくても大丈夫です。









雪村千鶴、藤堂平助が入学してきてから早半年。つまり世間では食欲の秋・読書の季節と呼ばれる9月にさしかかろうとしていた。

薄桜学園の運営者である近藤勇は、思い立ったが吉日といわんばかりの勢いで今年新たな試みを職員のごく一部に話した。

「鈴鹿学園との、生徒交換…?マジで言ってんのか近藤さん」
「ああ、先方の千姫とは既に話がついている。後はこちらの生徒から誰を選出するかどうかなんだが…」
「ちょっ、と待ってくれよ。俺達にも分かるようちゃんと説明してくれ」

土方と原田、そして永倉の驚きを無視してそのまま話を続けようする近藤を、慌てて止めたのは原田。
昔ながらの付き合いなのか、一見に穏やかに見えて破天荒な面を併せ持つ近藤の性格を分かっているのか、何がどうしてそうなったと本来重要とも言える部分をすっ飛ばしている近藤に待ったの手を入れた。

「んん?ああすまなかった。実はな――」

すっかり忘れていた近藤は笑いながら事のあらましを語った。
それは近年の教育に遅れをとるわけにはいかないと経営者である立場の近藤が、先日、同じ境遇にある鈴鹿千姫に相談を持ちかけたところから始まった。
何かいい案はないのかと首を捻っていた近藤に対し、上流階級で育った千姫は土方達の度肝を冷やす内容を切り出した。
まぁ要約すると、「生徒の自立・柔軟たる思想を養うために互いの生徒を一時期交換しないか」と。
人間違った環境で過ごせば適応力が高まり社会が求める人材に早く近づける、とそれはもう熱烈に口説かれた近藤は感銘を受けたと涙まで流し、その日の内に鈴鹿学園との協力体制は敷かれたのだ。

話を聞くだけで目に浮かぶその光景に、3人は近藤さんだもんなぁと妙に納得し口説き落とした千姫の腕に感心した。
そして、そこに千姫の別の思惑があったと気づいたのは土方だけであろう。
経営者であり、またその年から教育を受ける者としては、こちらに入学した雪村千鶴と一緒に学園生活を送りたいという思いから、近藤さんが相談した事に良いことにこの話をしたのだろう。

「話は分かったぜ。向こうさんも協力してくれるってんなら、この件進めた方がいいだろ。んでこの話はいつするんだ?」
「分かってくれるか永倉君!君らに話して許可が下りれば、明日にでも他の職員や生徒に話そうとな」

3人の中でも教育に関して人一倍熱心な永倉に同意を得られて嬉しいのだろう、近藤は更に笑みを深くした。
それを見てしまい、原田はそんな顔されちゃダメだなんて言えねぇと苦笑したが。幸いにも近藤の目には入らなかった。
土方も原田と同じなのか、今度の段取りを話す様子を頬笑みながら見守っていた。

「一番良いのは生徒が自ら立候補してくれるのだと良いのだがな」
「この年頃の子どもって奴は違った環境へ赴くのを嫌がるからな…もし誰も名乗り出なかったら斎藤や総司にでも頼むか」

最初が上手くいけば次回からは立候補しやすい状況になるしな、と続く永倉の言葉に土方は目をむき傍観の立場から一歩首をつっこんだ。

「総司は駄目だ。アイツは目を離すと何するかわかったもんじゃなねぇ。今後の事を考えるんなら他の奴にしとけ」
「トシ…。総司も大人になったんだ、そんな心配は必要ないだろう?」
「いいや、まだ子供だ。目の届くとこに置いておかねぇと」

どうもまだ多摩に居たころの関係が抜けきれていないなと、近藤含め原田、永倉が笑っていると土方はこの間の俺のテストの時だってなぁと拳を若干震わせながら愚痴ろうとする。
このままでは話が脱線しかねないと原田は笑って土方の肩を叩き、近藤に向き直った。

「誰もいなかったら、そん時考えりゃいいだろ?」
「ははっ、そうだな」

いつまで経っても土方と沖田のやり取りには笑わせられる、と当事者以外は楽しく、このままの関係でもいいかと思ってしまう。
だがそんな事を思ったのも一瞬、恨めしそうに沖田の事を話す土方を見ていると苦労してんだなと同情の念がこみ上げてきた。












そして1週間後の今日。
いよいよ生徒交換の日がやってきた。
近藤らが疑念していた自体は発生することなく、ある一人の生徒が手を挙げてくれた。
その生徒は今頃鈴鹿学園にて同じように紹介されているのだろう。
近藤は広い体育館のステージ上に上り、全校生徒の前でスピーチをしていた。

「皆、話は既に聞いている通り今日一日だけだが、鈴鹿学園の生徒が一人我が学園に来てくれた。
それに伴って今日の授業は変更し、全クラス対抗の運動会を行う。詳細はこの後のHRで担任の先生から聞いてくれ。
私からは以上…っと、忘れてはいかんな。今回我が学園に来てくれたのは――」


「ねぇ一君……。近藤さん、さっき誰って言ってた?僕の聞き間違いでなければ――――って。僕耳が遠くなったのかな」
「安心しろ総司、聞き間違いでもなく耳が遠くなったわけでもない」
「…ってことはやっぱり?」

授業が中止と聞き生徒からは喝采の声が上がった。その後で運動会だと知ればさらに盛り上がった。
マイクを通した近藤の声が聞き取りにくいくらいに。
そして全校集会が終わり、各自のクラスへ戻ろうとしている時に沖田は同じクラスである斎藤に確認をとっていた。
聞き間違いであればいいと思っていたのに、それは斎藤に断言され夢でも幻聴でもなかったと項垂る。
今世では会うことはないだろうと何故か決めつけていた人物だっただけに沖田の衝撃は軽いものではなかった。
斎藤もあまり良い顔はしておらず、これから会うかもしれない人物に警戒心を顕わにしている。

「ごめん一君。今日はサボらせて。HRが終わったら僕は千鶴ちゃんのとこへ行く」

風紀委員である彼にわざわざ断りを入れてまで宣言する。
それに、一君も納得したのか「俺も行く」とまで言ってくれた。




強い味方を得た沖田は、教室で担任が来るのを今か今かと待っていた。
本当はすぐにでも千鶴の元へ飛んで行きたい。
だが、まずは敵を知るべしと何時になく慎重になっていた。
近藤は生徒名を述べただけでその生徒が本日どのような待遇になるのかは一切言っていなかったのだ。
詳細はHRで。その言葉があったためにそうして大人しく自分のクラスにまだいる。
いつもなら先生が来ないことをいい事に寝ているか携帯をイジっているのだが、今日はソワソワと落ち着かない。
まだかと頬杖をつき、開かない扉をじーっと見つめた。
まだ来ない。扉を見つめる。反応なし。目を閉じる。開ける。それでも来ない。
段々と苛立ちが増し机をトントンと突き始める。
窓側の、一番後ろという昼寝に絶好のポジションが今日だけは嫌だった。
扉から机6つ分遠い席は彼女の元へ駆け付けるまで数秒のロスが生じる。ひょっとするとその数秒が命取りになるかもしれない。
大袈裟かと思うが、今日現れる敵はそれほどに厄介なのだ。

ガラッという音を伴って待ちに待った扉がついに開かれる。
次いで現れた担任を確認し、数席離れている一君とアイコンタクトを交わす。

(一君、準備は良い?)
(いつでも大丈夫だ。話が終わり次第行くぞ、総司)

互いに頷き、さぁ出陣だと意気込み、臨戦態勢を整えて教卓の方へと向き直る。
そこには見慣れた担任と、あの風間千景が立っていた。






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