[狂気舞ウ舞台ニ立ツ壊レタ人形](3/3)
「あんたに、総司だけの俺をやる。その代わり、俺だけの総司を俺に差し出せ」
「え?」
「俺の傍を離れるな、他の人間(もの)と楽しそうに話すな、一生俺の為だけに生きろ。それが守れなかったら――……」
一君は僕の鎖骨辺りに舌を滑らせ、吸血鬼の如くそこに牙を立てた。
「、んっ…!!」
牙を立てられた其処からは僅かながらにも血が流れていて、一君はそれを厭らしく舐め取った。
そして僕の耳元に口を近付けると、低く甘い声で囁いた。
「……俺が、あんたを殺してやる」
愛の言葉を紡ぐようなそれに、僕は歓喜に体が震えた。
「はじ、め…君…」
「安心しろ、一人にはしない。総司を殺した後、俺も直ぐに後を追う」
「うん、約束ね…」
「ああ」
誓いの印とでも言うかのように、一君は僕を喰らうかのような激しい口付けをくれた。
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「総司は寝ちまったのか?」
襖の向こう側から聞こえた声に、斎藤は視線だけをそちらに送り肯定の言葉を伝えた。
「…斎藤、お前は…総司を……」
「左之、勘違いをするな」
彼――原田の詮索するような声に、斎藤は鋭い声で襖越しに相手を睨み付けた。
「俺は最初から総司を手放す気など微塵の欠片もない。…総司は未来永劫変わる事なく俺だけのものだ。例え一時であろうとも、俺以外のの誰のものにもなりはしない」
「……やっぱりお前は総司以上に狂ってるな。土方さんが、お前を信頼しておきながら同時に危惧してたのも理解出来るぜ」
「それは褒め言葉として受け取っておく。そもそも狂っていなければ、今の総司を包み込んでやる事など出来るはずもないだろう」
狂気を孕ませた斎藤の言葉に黙り込んでしまった原田を襖越しに見つめ、斎藤は沖田の髪を撫でながら嗤った。
(あんたや土方さん、……否、他の誰だろうと無理だ。俺しかいない、俺だけが総司を包み込み、守ってやれる……)
最早斎藤と沖田を引き離す方法など、ありはしなかった。
(けど、これで良いのかもな…)
お互いが依存し合い、執着しているこの二人を引き離すなど、初めから誰にも出来るわけがない。
二人は互いを深く愛し、必要としている。
何よりお互いが引き離される事を、この二人は望んでいないのだから。
「総司、もう…逃がしてなんてやらない」
何も知らず、眠り続ける愛しい存在(おきた)に、斎藤は甘く口付けた。
狂気舞ウ舞台ニ立ツ壊レタ人形
一度壊れた人形は、修復不可能。けれど、この人形は修復の必要なし、
「紅き華が咲く刹那」の管理人、乃木坂瑛菜さまより。
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