[狂気舞ウ舞台ニ立ツ壊レタ人形](2/3)
「総司、あんたは一つ勘違いをしている」
一君は然程距離のない僕の直ぐ目の前に立つと、僕の頬に触れて撫でるように顔の輪郭をなぞった。
「……勘違い、?」
「そう…勘違い、だ」
訝しげに問い掛ければ、一君は小さな子供を相手に話すようにその言葉を繰り返す。
「っ、何なのさ、その勘違いって」
焦れたように一君を見つめれば、僕を見つめ返す一君の瞳に嘲笑の色が混じった。
「あんたは、俺を殺せない」
一君の言葉が、理解出来なかった。
「……な、何言って…」
「いくら俺とあんたの実力が同等でも、あんたに俺を殺す事は出来ない。…いや、出来るはずがない」
「何を根拠にそんな事が言えるのさ!!」
一君の言葉は僕を侮蔑しているようで、怒鳴り声で反論すれば彼は刀を持つ僕の手に手刀を落とし、そのまま手首を掴んで僕を壁に押し当てた。
その一瞬の出来事に僕は目を丸くする。
そんな僕を見て一君はあからさまに嘲笑を浮かべた。
けれど、その嘲笑の中に何故か、いつもの彼の優しさを僕は垣間見た。
「……俺を殺した後、誰があんたの傍にいる事になる?」
「っ……」
「自分でもわかっているのだろう、俺を殺しても決して満足する事はない、と。俺を殺した所でただ猛烈な孤独感に押し潰されるだけだ、と」
「それでも、僕は君を離したくないんだ!!僕だけの、一君が欲しいんだ…」
話の途中で涙が出そうになった僕は俯き、弱々しい声でそれでも一君に訴える。
すると彼は、これ以上ない程の優しい笑みを浮かべて僕を抱き締めた。
「…初めから素直にそう言えばいいものを……。あんたが望むなら、総司、あんただけの俺をくれてやる」
「…本当……?」
「ああ。但し、条件がある」
「何?」
僕だけの一君が手に入るなら、どんな条件でも呑む覚悟がある僕は一君の言葉を待った。
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