時と場合を考えましょう2






「…分かった。負傷者の治療は山崎にあたらせる。お前はそのまま総司についてやってくれ」
「わかりました、失礼します」

頓所に戻った私は土方さんと山崎さんに経緯を話し、床の準備や水や布を用意して沖田さん達の到着を待った。




そうして山崎さんが治療を終え、斎藤さんが報告のため土方さんの元へ向かったので、沖田さんの部屋には二人だけとなった。

しかし、やはり出血が多かったのか、沖田さんは治療の最中に気を失った。
血の気が引いた皮膚は目に見えて青白く、ゆらりと揺れる行灯だけが彼の色を明るくさせた。

(こういった時に不謹慎だけど、やっぱり沖田さんって…綺麗)

近藤さんを真似ていると言った髪は、今は解かれ広がっている。
顔についた血を拭うついでと言わんばかりに沖田さんの顔をまじまじと観察する。

少しだけ高い鼻筋だとか、意地悪を言うふっくらとした唇だとか、薄い瞼に隠されている翡翠の眼だとか。
女の私から見ても羨ましいくらい整っている。

(あ、睫毛も長いなぁ)

こうしてるとお人形さんみたい。
でも眠っているだけじゃ、嫌だ。
私を見てほしい。
私に話しかけてほしい。
私に触れてほしい。

(早く、元気になって下さい。)
(悪いコだって、私に教えてくれるんでしょう)

このまま目が覚めなかったら、なんて変な妄想をしてしまいブンブンと頭を振る。
血に濡れたおしぼりを一旦すすごうとしたところ、数人分の足音がこちらに向かっている事に気付いた。

ひょっとしてこれは、と思っていると襖がスパンと開き、心配で様子を見に来ましたという顔の平助くんと原田さん、そして永倉さんの三人が立っていた。

「総司が怪我したって聞いたんだが…」
「原田さん。沖田さんなら今―「僕なら起きてるよ」」

え、と横になっているはずの沖田さんを振り返れば、閉じていた瞼は開き、にやりと悪戯が成功したような顔をして起きようとしていた。

咄嗟に手を伸ばし、その身体を支える。
いつの間に、と問えば、千鶴ちゃんが独り言を言ってる時にと返される。

うそ…声に出ちゃってたんだ…っ!!
独り言も恥ずかしいが、それよりもその内容を聴かれた事が恥ずかしい。


「それにしても総司がケガするなんてな。強かったのか」
「いえ、弱い割りに数だけは一人前でしたよ」

一人赤面していると、永倉さんが沖田さんに話しかけ、次いで平助くんと原田さんもいつもの調子で続いた。

「それって最悪じゃん。団体さんだと疲れるよなー」
「総司に返り討ちにされるようならまだまだだな」
「あー俺も久々に暴れたい気分だぜ」
「何言ってるんですか。訓練じゃ張りきってしごいてるって話ですよ」
「そんなもんじゃ暴れた内に入らないっつーの」
「そうそう新八っつぁんが訓練時間を守ってる時点でまだ理性が残ってるって」
「おうよ!」

「…たまに新八に教えてやった方がいいのか悩むんだよ」
「本人が気付いてなかったらいいんじゃないですか。教えなくても」
「まぁ、そうだよな」

ケガに目敏い三人が包帯を巻かれた腕を見ても、とくだん騒ぎもせずいつも通りの会話をしている。


「総司!しばらくはお前の訓練当番代わってやるよ」
たまには思いっきし身体動かさなきゃな、と永倉さん。


「その腕じゃ刀の手入れ、キツイだろ」
俺がやってやるよ、と平助くん。


「平助で不安だったら、その後研ぎに出してやるよ」
つーことで巡回交代な、と原田さん。


三者三様で気遣う思いに、沖田さんは「全く…僕の周りには過保護な人が多いんだから」と呟いて、枕元に置いてあった愛刀を平助に預ける。

「そんなに言うんならお二人にも代わらせてあげますよ」

斎藤さんの時も見せられた、強い絆。

これは壊しちゃいけないものだ。
そして、これからも変わらないであろうもの。

どんなに沖田さんへ想い馳せようと、そこに私は入り込めない悔しさが渦巻く。


「でも、まぁ、一番過保護な人はこの人なんだろうけど」

沖田さんが三人の後ろを見ると、丁度土方さんが現れた。

「もう起きててもいいのか」

三人も土方さんを見て、違いねぇと笑う。
いきなり笑われた土方さんは訳がわからないと言うが、皆は何でもないの一点張りで、溜息とともに説明を諦めた。

「報告は斎藤と雪村から聞いた。お前はしばらく大人しくしてろ。当番は、そうだな…」
「あ、土方さん。それならもう決まってるぜ」
「訓練は俺、巡回は左之と平助がやるぜ。」
「食事当番なら私が代わりにやります!」

私も負けじとしたい旨を告げる。

「なら俺は掃除当番といったところか」

土方さんに遅れるように入室した斎藤さんも、やっぱり気遣うように述べた。
それなら問題ねぇかと土方さんは納得し、くれぐれもケガを悪化させるような事はするなと釘をさした。

「あーぁ、じゃあ僕はお茶碗も持てないですね」
みそ汁もしばらく食べられないかぁ、と軽く嘆く沖田さん。
ここぞとばかりに私はまた声を張り上げた。


「それなら私が食べさせてあげます!」


皆さんのように、沖田さんの為に何かしてあげたい。
そう思って宣言した言葉の意味を、私はまだちゃんと理解していなかった。

「な、なぁ。それって、まさか…」
「アレだよ、アレ」
「くぅ〜、総司の奴羨ましいぜ」

ひそひそと小声で話す三人組、土方さんと斎藤さんが驚いたように固まる。
沖田さんは笑いが堪えきれなく、くすくすと震えていた。

「ねぇ、千鶴ちゃん。」
「?何ですか」
「今のって本当?」
「本当です!沖田さんには私がずっと付き添いますから」
「ありがとう。」

沖田さんは笑顔で、こんな僕でも末永くよろしく、とか土方さん達に、今日の夜は千鶴ちゃんと約束があるので、とか言っていた。

早く部屋から出て行け、との遠回しな言葉に土方さんは皆を引き連れて行く。
最後に土方さんは少しだけ寂しそうな顔で、その…なんだ……総司の事頼むぞ、と言い残していった。

皆の反応を不思議に思いながら、はいと返事をしてニコニコと笑顔の沖田さんのお世話にうつる。

「どうかしました?」

妙に機嫌の良い沖田さんに聞くと、更に笑顔を深めた。

「君は悪いコだけど、良いコだね。僕にアーンをしてあげるって言ったり、添い遂げるって宣言しちゃったし」

え、とそれだけを聞くとかなり恥ずかしい事を言ったような…。
何か勘違いされたのだろうか、さっき自分が言った事を思い出す。

「…!!違っ、添い遂げるとかそんな意味じゃっ」

看病する意味で、と必死に弁明するけど沖田さんは全く聞く耳を持ってくれないし、あげくには幸せにしてね許婚さんと話が大きくなっちゃうし。

「僕もずっと君を守ってあげる」

だから違いますって!!









――時と場合を考えましょう――
(その前に…悪いコにはお仕置きしなきゃね)

END.





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キリ番777 乃木坂 瑛菜様に捧げます。





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