時と場合を考えましょう1






「沖田さんっ!」

浪士達と新撰組の刀が切羽交わる場面、黄昏に染まる小路に響く声。

「っ――隠れてろって言ったよね。自分から敵を呼び寄せて、どう、するのッ」

鍔ぜり合いで膠着していた相手を沖田さんは力技で弾き、私に寄って来た浪士をまた一人切り捨てる。
肩で息をしながら、その背に私を庇う姿が勇ましく見えると同時に、彼の命もまた危ないと思ってしまう。

「わ、私も、戦います!」

巡回途中で取り締まる事になった浪士十数名に対し、応戦するは一番組の十名足らず。
沖田さんにとって、相手がいくら烏合の衆だろうと多勢に無勢、まさにそんな言葉が似合う中、せめて邪魔にならないよう僅かに震える手で小太刀を構える。

「いいから君は下がってて…。じゃないと――間違って殺しちゃうよ」

頬に飛び散った血飛沫を拭う間もなく、ジリジリと浪士達に沖田は牽制を掛ける。
眼光だけで敵を射抜くような鋭い眼差しは、それだけで敵の動きを鈍らせている。

「さぁ、新撰組一番組組長沖田総司に殺されたいのは誰かな。死にたい奴からかかっておいで」

一分の隙も与えない研ぎ澄まされた構えと気迫は、まさに鬼神の如く。

「く、くそがあぁぁぁ!!」
「その首貰い受ける!」
「――ハァっ!……弱いね。この程度で僕を殺ろうだなんて、あまいよ、ほんと」

(…沖田、さん……)

迫ってきた浪士の頸部を一線する沖田の姿は、そこから吹き出る赤い色に良く映えた。

「っ、ひぃぃー!!!」
「怯むな!奴もそろそろ疲れておるぞ!」

一人、また一人と着実に浪士の数が減ってゆき、路地の乾ききった土に血がしんしんと染み込んでいく。

地面には重なりあう浪士達の身体と、その周りに広がる変色した赤褐色。




「さて、と。残るは君一人だ」

最後の一人を罠に嵌めるかのように、沖田さんが潤いをおびた土を踏みながらゆっくり浪士に近づく。
その土に、ポタポタと水気をたすよう赤い滴が垂れ落ちる。

(ッ…腕にケガを?!)

見れば、沖田の左腕の袖から滲み出た血が腕をつたって流れていた。

「ただでは死なんっ」
「五月蝿いよ――これで終わりだ!」

左腕を狙った浪士はあきらかな捨て身で刀を振り上げたが、振り下ろすよりも速い沖田の斬撃でその命を終えていた。

「…ふぅ…大丈夫だった?千鶴ちゃん」

一連の出来事を見ているだけで精一杯だった私を、日常の世界に引き戻してくれたのは沖田さんの優しい声。

「私は、平気です…。それよりも沖田さんの方がケガを!!」
「これくらいで大袈裟。心配するような事じゃないって」
「いいから腕出して下さいっ止血しなきゃ!」

持っていた手ぬぐいをピンと張り、渋々ながらも肩から袖を落とす沖田さんの左上腕に巻き付ける。
患部を見るとそれほど深くはないが、傷を負った後にも戦っていたせいで出血が中々止まらない。

「今は応急処置しか出来ませんが、早く頓所に戻ってちゃんと治療しましょう」
「はいはい。でも帰ったら千鶴ちゃんの身体にたっぷりと教えなきゃね。僕の言う事を聞かない悪いコだって」
「後でならなんでも聞きますから…って、……?!ぇ…か、からだ!?」

冗談か本気か分からない沖田さんの台詞に、処置のためと触れていた身体の熱を急に意識してしまい私もなんだか熱くなってしまった。
そんな反応する私を見て笑う沖田さんに約束だからね、と言われ逃げられなくなってしまった。

でも二人で居られると思い嬉しくて、そして恥ずかしくて。
沖田さんの顔がまともに見れないのを隠すように、ギュッと手ぬぐいを締めた。







かろうじて生き延びた一番組の方々と共に頓所に戻ろうとする途中、同じく巡回に出ていた三番組と偶然合流した。
満身創痍である姿を見た斎藤さんは、事情を聞くや組員に後片付けへ向かうよう指示を出し、私達と共に報告のため頓所へ戻った。


「…一くん、僕一人でも歩けるんだけど」

困ったような声に反応し、二人を見る。
外敵から沖田さんを庇うよう隣を歩いていたはずの斎藤さんが、いつの間にか沖田さんの右腕を己の肩にまわし支えていた。

「嘘を言うな。さっきからフラフラしている。」
「血を流しすぎちゃったのかな、でも歩けないほどでもないし」
「それこそ、無理をして倒れたら誰が運ぶと思ってるんだ。」
「あはは。この場合、一くんしかいないよね」
「阿呆な事を言ってないでもっと身を任せろ」
「うーん、せっかく楽出来るんだし。甘えちゃおうかな」

そう言って、安心して斎藤にのしかかる沖田。

きっと私相手では変な意地を張るであろう沖田さんと斎藤さんの絆を見てしまう。

私よりも早く沖田さんの異変に気付いた事も含め、斎藤さんにひどく嫉妬した。

(まだまだ私には入り込めない部分があるのは分かってるんだけど…)

戦いにおいてはお約に立てないけれど、せめて医療やお世話など出来る事で沖田さんを支えようと改めて決意した。

「あの、先に戻って山崎さんを呼んでおきますね!」
「そんな重傷でもないんだけどなぁ」
「すまない、雪村。頼む」
「二人とも変な所で強情なんだから…」

有無を言わさない斎藤さんの圧力に負けて大人しくなった沖田さんにいってらっしゃいと見送られながら、治療の環境を整えるため一足先に戻ったのだった。







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