共に夢を追った






僕に残せるものは何か。
最近はそればかり考えていた。


「総司さん、身体が冷えてませんか」

縁側で佇んでいた僕の肩に、そっと羽織りが掛けられる。

「ありがとう、千鶴」

ふわりと笑う君が、体温が伝わりそうな距離を選び僕の隣に座った。
暖を失って爪が暗色になった僕の手に重ねられたのは、ほんのりと暖かい千鶴の右手。
僕より小さく綺麗な指に僕の指を絡ませると、まるで熱を共有するかのように僕と千鶴の熱が近付いていく。



「もうすぐ冬ですね」
「そうだね…」


また、季節が巡る。
彼女と出逢ってから、何度目の冬になるだろうか。

雪村由縁の土地で羅刹が抑えられ、血を求めることも少なくなった今、僕にあるのは労咳に蝕まれた身体。
変若水を飲んだ当初と同様に、今も喀血はあまり見られないが、確実に、病は重くなってきている。

幸運な事に、千鶴に労咳の症状は現れてはいない。
…もしかしたら、彼女の鬼の血が、彼女を守っているのかもしれない。




「――ねぇ、千鶴」
「なんですか?」
「僕たちの子ども、欲しくない?」


おそらく、僕はもう長くない。

父と呼んだ人を失い、兄と知った人を亡くし、僕まで逝ってしまえば、君は一人この土地で何を思うのだろうか。

あの零れんばかりの瞳を真っ赤にして、声が掠れるまで叫んで、きっと、僕のために泣いてくれる。

君を一人にしたくない、けれど…。

どうしたら君が泣かずに笑って暮らしていけるか、何度も何度も考えた。


「ぇっ!…ほ、欲しい…です」
「くすっ、そんな照れないでよ。襲ってしまいたくなるじゃない」


僕の事は忘れて他の男と幸せに。
そう言えたら、どんなに良いのだろうか。
僕は嫉妬深い男だから、君が愛しすぎて、死後であろうと他の男に君を渡したくない。


「わ、私も思っていましたから」
「うん?」
「総司さんの子どもを授かりたいって」


もしくは、僕と一緒に逝こう、と言えたらどんなに良いか。
君のこれからの人生を全て僕が奪って、永久に縛り付ける。
そんな、僕の独りよがりな我が儘に君を付き合わせる事は、僕自身が許さない。


「僕はもっと先まで千鶴と二人だけでも幸せ。だけど、子どももいる所帯だったらもっと幸せだろうね」
「ええ。総司さんは好きでしたよね、子ども」


かと言って、君が僕の後を追おうとする事も許さない。
君を傷付けても良いのは、後にも先にも僕だけだから。
でも、死んでしまったら千鶴を守る事は出来ない。


「うん。千鶴の子なら尚更可愛いと思う」
「総司さん。もし、子供が生まれるのなら女の子と男の子、どちらがいいですか」
「…男の子、かな。女の子だとしたら、沢山泣かせちゃうだろうし」


だからこそ、僕と君の子を残したいと思った。
男児であれば僕の代わりに、君を託せるから。
きっと、君を守ってくれる。



「大丈夫ですよ。女の子は泣いて強くなるんですから」
「きっと千鶴みたく、気丈な女性になるんだろうね。…ねぇ、もし女の子だったら桐を植えよう?」
「桐、ですか?」

「聞いた事があるんだ。女の子が生まれた時に桐を植えると元気に育つって」
「ふふ、素敵なお話ですね」
「うん…桐は子どもと一緒に成長して、20年後には大きく太い幹となる。その間にも紫色の花が咲いて、何十年も見守り続けてくれるんだ」


女児だとしても、僕は桐となり、君たちと供にあれるから。
僕が咲かせた花で君を笑顔にしてあげる。


「じゃあ女の子が生まれた時には桐を。男の子が生まれた時には天然理心流を教えてあげてください」
「…これからの時代、刀は要らないと思うけど?」
「いいえ。剣を通じて本当の武士(おとこ)に育ってほしいんです。沖田さんの剣には、近藤さん達から受け継いだ魂が宿っていますから」
「近藤さん達の…。分かったよ。約束しよう」



たとえ、僕に残された時間が少なくても。
夢物語だとしても。
こうして語り合った夢に向かって君の傍に有り続け、闘い続けると約束しよう。


「はい、約束ですよ」





――共に夢を追った――
(君とずっと一緒にいられるのなら、どんなに幸せなんだろうか)

END.




提出先↓
沖田×千鶴限定企画サイト:君と僕とこの世界で





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