いつの日か、この手を取って貰えるように
「あれ、沖田さん何してるんですか」
箒を持って落ち葉を集めていると、沖田さんと子供達がきゃっきゃと何かを追いかけているのが見えた。
「お掃除ご苦労さま。千鶴ちゃん、竹トンボ一緒にやらない?」
「竹トンボ、ですか」
「うん。久しぶりにやってみたけど楽しいよ。」
追いかけていた何かは竹トンボだったらしく、子供達が空に上げ気ままに流れる風に乗ったものを次は自分がと皆一生懸命拾い、また空へと上げていた。
「子供の時に遊んだ以来です。」
「あれ、今でも遊んでいる僕はまだ子供って言いたいのかな」
「いえ!そんな事言ってませんっ」
焦る私を見て沖田さんはそうかなと、意地悪そうな顔で笑っている。
笑ってはいるけど相手を試すような、いつもの好戦的な顔と似通った部分を見つけて心臓がトクンと高鳴った。
「千鶴も遊ぼー」
「ねね、遊ぼう」
女の子が竹トンボを持ってきてくれたので、その細い棒を受け取った。
「ありがとう、じゃあ飛ばすよ」
くるくると回る竹トンボ。
昔、乱暴に扱ったら壊れてしまいそうなソレに気を使い過ぎて、何度回しても空に上がらなかったっけ。
それでも回し続けて遊ぶ私を、父様は近くで優しく見守ってくれていた。
今はちゃんと力の加減も覚え、遠心力を伴って空へ上がっていく。
「良く出来ました」
ポンと私の頭を撫でる温かい大きな手。
にっこり微笑む沖田さんの表情に、父様のような優しい感情が垣間見え、なんだか私まで子供扱いされいるようで少し恥ずかしい。
「沖田さんって」
「うん?」
「良いお父さんになりそうです」
「…いきなり何言ってるの」
びっくりした沖田さんは撫でていた動きを止めた。
頭の上に残る手の体温が心地良いなんて、私はまだ子供なのかもしれない。
内心笑っていると、沖田さんの手が後頭部にまわり身体を軽く引き寄せられる。
突然の事についてゆけず、気付けば目の前には傷痕のないしなやかな胸板。
ふわりと香る沖田さんの匂いと逞しい腕に包まれ、
「君も良いお母さんになるよ」
子供に妬けちゃうくらい―耳元でそっと囁かれた声に、血流が一気に増すのを感じた。
「お、沖田さん、」
「そろそろ隊務に戻らなきゃ。じゃあ千鶴ちゃん、また」
遊んでねと言い残し、ひらひら手を降っている背中に、思わず縋ってしまいそうになる。
私は一瞬だけ感じた温もりを想いながら、拳をつくることでその衝動に耐えるしかなかった。
いつの日か、この手を取って貰えるように
(沖田さんが築く、将来の家庭を見たいと思いました)
END.
←