想いの先にあるモノ 4




side.千鶴



もしも生まれ変われるのならば、また同じ時代を歩みたいと願った。
もしも許されるのならば、貴方と幸せになりたいと願った。

もしも――運命という名の奇跡があるならば、今度こそ、貴方と共に生きたい。






「総司!?」

幻聴のようで、幻聴ではない。
何処か遠くで、あの人を呼ぶ声がしていた。

遠くに、あの人がいたはずなのに。
交差したはずの視線から逃れ、校内へと消えて行ってしまった。

私は春の陽光に照らされた幻を見たのだろうか。
ずっと前から、私が生まれる前から、『私』が会いたいと願っていたあの人の幻を。

校門に佇む私は、舞い上がった桜の花びらを払う事も忘れ、頼りない足取りであの人の後を追うように玄関先へ向かった。

「沖田さん…!」

やっと、やっと会えた。
自分に都合の良い幻視ならば、沖田は制服姿で現れるはずがないのだ。
知らず知らず涙が溢れてゆく。

その涙を手で拭うと、二人の男子生徒が前方に歩いているのが見えた。

「なぁなぁ総司のやつ、いったいどうしたってんだ」
「俺にもわからん。が、もしかしたら記憶を思い出しかけてる可能性がある」
「え!?それ本当か?」
「確実ではないが、俺に初めて会った時も同じような――」

遥か以前に見慣れていたはずの二人。
今は服装が違ってはいるけれど、この後ろ姿と声は間違いなく彼らだと判別できた。

「あのっ!」
「…ん?」

お二人はお話し中だったけれど、今を逃がすと今度いつ会えるかわからない。
そんな思いがあって、少し大きな声で呼び止めてしまった。

案の定、振り向いたのは斎藤さんと平助くんで、驚いた顔も昔のままだった。

「お久しぶりです。私、雪村千鶴です」
「―!千、鶴…?」
「…久しいな、雪村」
「はい。斎藤さんも平助くんもお元気そうでなによりです」
「雪村もここの生徒になるのか」
「ええ、今日からまた宜しくお願いします。」

ペコリと頭を下げて、挨拶をする。

「あ、あのさ、千鶴」
「?どうしたの平助くん」

すると、なんだか平助くんは、歯にものが詰まったような様子で私に昔の記憶があるのかどうか尋ねてきた。
不思議に思いながら私が是と答える事で、肩の力が抜けたみたいに安堵していた。

「あの、見間違いではないと思うんですが、沖田さんもこの学園にいらっしゃいませんか?」
「あー…えーっと…」
「俺から話そう。入学式まで時間は大丈夫か。」
「あ。実はクラス確認とか、まだなんです」

表情が浮かない斎藤さんだったけど、ちゃんと説明してくれるみたいで。
何かあるのかと内心身構えていると、まずはクラスを確認し、教室に鞄を置いて来るように指示された。

言われたように確認すると、平助くんと同じクラスの1-B。
場所を変えて説明する、と入学式が始まる前に斎藤さんが教室まで迎えに来てくれる事になった為、まずは平助くんと一緒に教室へ向かった。

その途中平助くんに話し掛けてみるけど、俺今ちょっと混乱しててさ、と苦笑するだけで沖田さんに関する事は何も聞けなかった。

そうして教室で大人しく待っていると、斎藤さんが来てくれて平助くんと共に教室を後にしたのだった。










「此処でいいだろう。」

斎藤さんに連れられてきた場所は、教室から離れた所にある、茶室付近。
聞くと月晶庵という場所で、あまり人が訪れない静かな場所だった。
そこでようやく斎藤さんは口を開く。

「まず、この学園に居る者から説明しよう。

ここには新撰組の幹部だった者の多くが転生し、集まっている。
学園長である近藤局長を筆頭に、副長や山南さん、井上さん、原田、永倉、山崎、そして総司。
この面々がいる事は確認が取れている。

なお副長、原田、永倉は教師。山南さんは保健医。井上さんは相談員。総司と山崎は俺と同じ二年。

ここまではいいか。」

淡々と説明する斎藤さんは一旦息をつき、私達は頷く事でその続きを促した。

「今挙げた人物について、俺のように転生した時から記憶を持っていた者もいれば、その者に接触して思い出した者もいる。

結果、一人を除いた全員が前世の記憶を持っている事になる。」

「その、一人って言うのは…?」

私がまさかと思いつつ、恐る恐る聞いてみた。
何故斎藤さんは場所を変えてまで話さなければならなかったのか。
それは、私がこの学園に沖田さんがいるかどうか尋ねた事に繋がるのではないだろうか。
ただ一言、居る、とだけの回答が出来なかったから?

隣で聞いてる平助くんは何かを察していたのか、取り乱しもせずじっと斎藤さんの話を聞いているのに、嫌な予感ばかりが先走っていた。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -