想いの先にあるモノ 2







――巡り合わせっていうのかな。
幕末時代に生きた僕ら。
死後もなお、あの人に惹き寄せられたかのようにこの学園に集った。

それは生徒だったり教師だったり、肩書きは各々違うけれど。
また会えた事で、沖田総司としての、僕の願いも叶う気がしたんだ――



「やっぱ一君に総司じゃん!」

新しいクラスの確認も済み、玄関へ向かおうとした僕らに声を掛けてきた人物を見やれば、人だかりから出て来たらしき男が右手を大きく降っていた。
薄桜学園の指定服に同じように身を包んだ彼の横目には、桜の枝が揺れていて、隙間から覗く暖かな日の光が彼の栗毛色の髪を照らしている。

僕らが彼に気付いた事を確認すると、こちらへ向かって駆け寄ってくる。
その姿は、どこか見知ったような気がしていた。
走る反動で揺れる短髪が、一本で後ろに括った長髪に見えたのは、きっと気のせい。

「女子が騒いでたからまさかとは思ったけど、皆も生まれ変わって…って、俺の事覚えてる?」

当初嬉しそうに話掛けて来た彼が、途中自分を誰だか認識出来ているのかどうか眉を下げて不安気に尋ねてきた。

「あんた、まさか平助か」
「そうそう!藤堂平助!一君もやっぱ残ってんの?その、前世の記憶っての」
「あ、あぁ俺の場合はな」

驚いてる様子の一君を見る限り彼は、藤堂平助は僕らの仲間なのだろう。
会ったばかりのはずなのに何故か直感的に、そう思えた。

―ズキン…ズキン…

突然感知した頭の痛みを、まるで僕も知っていると強調するかのような痛みを無視して、平助と呼ばれた彼と向き合う。

「え…っと、平助くん?」
「よぅ、総司も久し振り!二人して先に会ってるなんてずりーよ」
「平助、総司は…」
「ゴメンね。ぬか喜びさせたところ悪いんだけど、僕は、君の事覚えてはいないんだ」
「そう、なのか」

僕が覚えていないと言って落胆したのか、明らかに落ち込んだ平助はどう答えてよいのかと目線を外した。
なんとなく、彼には沈んだ表情は似合わない気がした。

―ズキン…

「平助くん。君も、新撰組に居たんでしょ。」
「え、あぁ、うん」
「ハッキリとは思い出せないけど、君の事も知っている感じがするんだよね」

そう聞いて浮上した気持ちと一緒にコロコロと変わる平助の表情が、僕の頭の中を掻き乱す。

―ズキン…

段々強くなってくる痛みに、思わず側頭部に右手をあて、髪の毛がクシャクシャになるくらい握り締める。

ぎゅっと目を閉じると、瞼の裏側に浅葱色の羽織り。
あの人が掲げた誠という文字。
流れるような黒髪を頭に括り、僕の手を強く握るあの子。
赤い、赤い血の色。

「…総司?」
「どうした」

僅かな時間で僕の異変に気付いたのか、僕を心配する一君と平助君の声を合図に、懐かしい風景は過去の記憶と共に遠ざかる。

例えば、台風が過ぎ去った後は快晴になるというが、僕の心はまだ荒れたままだ。
二人には情けない僕を見て欲しくなくて、いつものように笑おうと目を開けるけれど、強く目をつむっていたのか二人の姿がやけに眩しい。

「大丈夫か」
「うん、大丈ー」

相変わらず頭の痛みは続いていたけれど、まずは光に目を慣らそうと足元を見ていた。
頭にあてていた手を利用して目元に影をつくっていたから平気だったから。
そして、そのまま目線を上げ、校門の先を見た瞬間だった。

―ざぁぁぁ

春風が一層膨らみ、無数の桜の花びらが舞い上がる。
偶然にも、校門の側を歩いていた女の子を花びらが優しく包むかのような光景に、僕は目を奪われた。
いや、光景にではなく、風によって乱れないよう髪を押さえていた女の子に、だったかもしれない。

だってそれは、先程見たあの子に、似ていたから。

―ズキン…

記憶の洪水が、走馬灯のように通り過ぎていく。
駄目だ、耐えられない。
頭の痛みではなく、光の眩しさでもなく、源泉のように溢れ出るオモイの渦に。

「ごめっ、はじめく…、先、行ってるね」
「総司!?」

言い捨てるように一人玄関へ走る。
きっと、一君と平助君は僕の突然の行動に付いて行けず、互いに顔を見合わせているのだろう。
心配を掛けている事は承知してるけど、今はなり振り構ってはいられなかった。

「――る、ちゃん…」

玄関に入って外が完全に見えなくなる前に、僕は一度だけ振り返った。

置いてきた二人が端に見えた気がしたけれど、僕の目は完全に女の子を捕らえていた。
遠目だったから、どんな表情をしているのかも確認は出来ない。
ただ、ただ、あの子であれば良いなんて願いながら。

―ズキン…ズキン…

あの子が誰なのか、視界に入っていただろう僕の事をどう思っていたのかなんて、今の僕には知る由もなかった。










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