39
FOX SIDE
右も左も分からないこの世界だけれども、どの世界にいたって変わらないことがあるの。
それは、困っている人は助けたいっていう気持。
だからこそ、私はこの時いかにも困っている!って顔をしたお兄さんに声をかけたのよ。
「どうされたの?私で良ければ何か手伝うけれど」
ねぇ、フォックス?私、当たり前のことをしたでしょう?
――というようなことが、彼女の顔には一言一句漏らさずに書いてあった。俺――フォックスは、しょんぼりと頂垂れて彼女――ピーチを見る。ピーチは自慢げに胸を張り、未だ憔然としている長髪の男に向き直った。彼こそが、ピーチ曰く“困っている人”らしい。
「人を探しているのね?その人の名前は何と言うの?」
「人じゃない、エリザベスだ!」
「そう、エリザベス」
ピーチは相変わらずにこにことしているが、俺はこんなところで油売ってる場合じゃないぞとひやひやしていた。迷子だか蒸発だか知らないが、俺たちは人探しに付き合ってる暇はないはずだ。鍵探しという、世界の命運を分ける重大任務が…。
「私、ピーチというの。こちらはフォックス。貴方、お名前は?」
「桂小太郎だ。革命家をしている」
「まぁ、素敵ね」
「素敵じゃない、桂だ!」
なんか会話が噛み合ってない気がする。桂というらしいこの男は、確かにただ者ならぬ雰囲気を醸し出してはいる。いるんだが、でも俺たちは………駄目だ、聞いてくれそうにない。
「そのエリザベスさんとはどこで別れたの?」
「朝方、エリザベスが一人で散歩に出かけたきり、帰ってこないのだ。以前ヤツは政府の回し者に捕まったことがある。大事にならなければよいが…」
「まぁ、それは心配ね、フォックス」
「え、あぁ、うん」
うーん…なんか今更“手伝えません”とは言えない雰囲気になってきた。
まぁ…、いっか。
どうせピカチュウとかリンクとかロイとか真面目な奴らが鍵探しをやってくれるだろ。俺たち二人くらいが寄り道してたって問題無い…と思おう。
「それじゃ、決まりね。桂さん、私たちも一緒にエリザベスさんを探すわ」
「おぉ、それは助かる!恩にきるぞ、ピーチ殿、フォックス殿」
「いや、まぁ、いいってことよ」
素直に俺たちの助力を受け入れた桂を、俺はやや複雑な気持で見つめていた。
「エリザベスー!どこだー!」
「エリザベスさん〜」
「エリザベスー」
探すとは言っても、この辺りの地理に詳しくない俺たちがむやみにうろついてもしょうがない。そんな訳で、俺とピーチ、桂の三人は一緒に通りを練り歩いてエリザベスなる人物の消息を辿っている。非常に非効率的だ。
だが、これはこれで中々いい情報収集になった。エリザベスの消息は依然として掴めないが、代わりにこんな証言をちらりほらりと聞くのだ。
「きぐるみみたいな生き物?んなの見てねぇよ。俺が見たのは、狼と一緒に歩く天使くらいだ」
「私、緑色の恐竜なら見たわ。握手してもらっちゃった」
「俺、亀の化け物見たぜ」
「私はね、風船みたいなふわふわの可愛い生き物見たのー!」
狼はリンク、天使はピット、恐竜はヨッシー、亀はクッパ、風船はプリンに他ならない。アイツらもこの辺りにいるんだ!
だが肝心のエリザベスは全く見付からず、桂は先にも増してぐったりと頂垂れた。
「何処だ…エリザベス。何処にいるんだ」
「桂さん、気を落とさないで。何処かエリザベスさんが行きそうな場所に心当たりはないの?」
ピーチはどこからともなく紅茶を桂に差し出しながら聞いた。そういえば亜空の時も俺に紅茶出してたな…。
桂はしばし黙り込み、それからはっとしたように呟いた。
「まさか…銀時のところに…?」
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