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PIKACHU SIDE
「ありゃりゃ、誰かと思えば…犬と…ネズミ?」
落下してきたボクたちを見て、若い男は首を傾げた。出来ればこのまま見逃してくれないかなー…とか思ったりしたけど、それはアラバルの言葉で不可能となった。
「おぉ、そいつらが話していた私への“刺客”です」
「へぇ、こんな奴らがねぇ…」
中年男はやや疑わしげにボクらを見つめた。一方ボクは落下してきた拍子に天井板の下敷きになってしまったので、現在懸命にもがいているところだ。
「にしても…また派手に壊したなぁ、団長」
中年男が唯一ある右腕で頭を掻きながらぼやく。
それとは対照的に、ハッハッハと地鳴りのような声でアラバルが笑って、団長と呼ばれた若い男に拍手を送った。
「いやはや、さすがは神威殿。頼もしい護衛ですな」
「お世辞はよして下さいよ、アラバルの旦那。ただ俺もちょっと退屈してたんでね。守るのは柄じゃないから」
「そうですよ、あんまうちの団長を調子に乗らせないで下さい」
「ひどいなぁ、阿伏兎は」
相変わらずへらへらと笑うあの若い男の名前はカムイ、片腕のない中年男の名はアブトというらしい。ボクは視界を濁らせる埃を慌てて払って、近くにいるリンクと共に全身の毛を逆立てて警戒態勢を取った。
油断があった。
ボクたちなら、どんな状況、どんな相手にでも引けを取らないという傲りがあった。
結果、今こうして最悪な事態に巻き込まれようとしている。
『…ごめんねリンク、ボクの判断ミスみたい』
『言ってる場合か。…一旦逃げるぞ』
愉しげにこちらを見下ろすカムイから距離を取り、じりじりとリンクが後退する。それに合わせて少しずつあとずさってみるものの、このまま楽に逃げられるとも思えない。
実際、カムイはボクたちから目を離さず、指示を仰ぐようにひらひらと傘をもっていない手を振った。
「…で、旦那。こいつらどうする?殺しちゃおうか」
ことも無さげにボクたちの生存権剥奪を宣言するカムイに、アラバルはおぞましい笑みで応えた。
「神威殿にお任せしましょう」
…つまり、殺れってことか!
「だってさ、阿伏兎。俺はあの狼もーらい」
「気が進まねぇが…仕事だしな」
ほぼ一瞬のうちに、カムイとアブトが間合いを詰めてくる。さっきは貧弱そうとか思ったけど、この二人、中々どうして手練れじゃないか!
『来い!』
そんな時、リンクが叫んだ。何か思惑があるのか、そんなことは分からない。けれどボクは素直に彼の言葉に従い、既に走り始めていたリンクの鋼色の背中に飛び乗った。
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