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ヒジカタの匂いを追って、俺とピカチュウは狭い天井裏を進んだ。本当はきちんと廊下を歩いて、きちんと匂いを確認したいところだが、それではいつ誰に会うとも限らない。
だいぶヒジカタの匂いが濃くなってきて、ヒジカタに辿り着くまであと少し、という時に、俺たちは予想外の人物に会ってしまった。

なんと、ヒジカタに会う前に、アラバル本人を発見してしまったのだ。

厳めしい緑褐色の体躯に、見上げる上背は天井にまで届かんばかり。そして俺たちスマッシュブラザーズにしか分からない、カギ独特のあのオーラ。
間違いない、奴だ。

が、その脇に小さな――とは言ってもアラバルと比べて、という話で――人影が二つある。鍵がアラバル以外にもあるという報告は受けていないから、彼らはこの世界の住人だろう。…にしても、その様子は…

『護衛…みたいだね』

ピカチュウが呟く。みたい、ではなく、どうやらその通りのようだ。
奴らの会話から察するに、その二人はどうもアラバルを守る為に雇われた護衛らしい。

護衛、とはいっても、彼らは特別屈強そうな訳でもなく、どちらかと言えば貧弱そうな体つきをしていた。持っているのもそれぞれ傘のみ。
若い男と中年の男の二人組だが、中年の方は片腕が無かった。
…そういえば、銀時と一緒にいた、神楽とかいう女の子も、傘を持っていたな。まぁ、それは今はいいか。

『どうする』

こう俺が問うのは、本日二度目だ。ピカチュウは真面目くさった顔でこう返した。

『とりあえず、牽制になればいいや。ボルテッカーで当て逃げする』

『…それって致死率高くないか?』

『大丈夫。…多分』

『………』

一抹の不安は残るが、今回のリーダーはピカチュウだ。俺に拒否権は特にない。

『じゃあ、頼む』

そう言ってピカチュウに全てを委ね、今にも天井板を突き破ってアラバルに急襲しようとしていた、その時だった。

「時に、旦那」

それまで談笑していた若い男が、突然天井を――まさに俺たちがいる辺りを見上げて、言った。その視線に籠る殺気に、思わず俺とピカチュウは体をすくませる。
そんな、馬鹿な。気配は完全に絶っていたはず。
が、若い男はへらへら笑いながらも、手に持った傘の切っ先を銃の照準でも合わせるように天井越しの俺たちに向けた。

「天井にネズミがいるみたいだ」

――気付かれていた!!
瞬間的に迫る殺気から、本能の命ずるままに飛び退る。勿論その際ピカチュウをくわえることは忘れていない。
信じられないことに、奴の持つ傘は内部に機関銃でも装填されているらしく、俺たちがいた天井板は瞬時に傘の先端から放たれた鉛の弾に撃ち抜かれて蜂の巣となった。

しかも元々ボロい城だったことが災いして、俺たちのいる天井板まで不穏な音を立てて軋み始める。ヤバい、と思う間もなく、俺たちは天井裏からアラバルたちの目の前へと落下していた。

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