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NESS SIDE
「やっぱり、警察に行くのが一番かしら」
お妙さんは首を傾げてぽつりと言った。警察?と僕は聞き返す。リュカも不審そうな表情をしていた。
お妙さんはにこりと笑って続けた。
「真選組っていうのよ。もし良かったら送っていくわ」
「あぁ…そうか…」
迷子の子供がいたら、そりゃ警察に届けるよなぁ。
漠然とこの屋敷にお邪魔するつもりでいた僕は、歯切れの悪い返事を漏らした。お妙さんはそんな僕の様子を見て、小さく苦笑した。
「警察はイヤかしら?…だったら、もうしばらくウチにいる?」
「あ、そういう訳じゃ…でも、えーと…」
僕にしては珍しく口ごもってしまう。リュカまで物珍しそうに僕を見ている。くそぅ、あとでいぢめてやる。
どうも、僕はお妙さんが苦手なようだ。この輝くばかりの太陽のような笑顔が調子を狂わせる。
うわぁ、どうしよう。お妙さんのウチには居たいけど、迷子は素直に警察に行った方が常識的だし、でも本当に警察に行って他の仲間と合流したらカギ探しを手伝わされる可能性が非常に高い!
「ぼ、僕もっとお妙さんと一緒に居たいなぁ!」
仕方ない。ここは下手でもいいから一芝居打って、警察に突き出されるのだけは阻止しなければならない。僕はお妙さんに見えないようにリュカの足を踏ん付けた。リュカは涙目になりながら僕を見たが、すぐさまその視線をお妙さんに戻した。僕の思惑に気付いてくれたようだ。
「迷惑なのは分かってます…でも、僕ももう少しお妙さんとお話したい、です」
僕が面倒事を避けたがるのとは別な理由から(お妙さんが心配だとリュカは言っていたし)、リュカは僕の芝居に乗っかったのだろう。理由は何であれ、僕たちの利害は今一致したのだ。
お妙さんは一瞬目を丸くし、それからまた僕の苦手な太陽のような笑顔を見せて笑った。
「迷惑だなんてとんでもないわ。どうぞゆっくりしていって。小さなお客さん」
リュカと僕は、何処か後ろめたい気分を胸の内に抱えながら、顔を見合わせた。
――このとき素直に警察に行かなかったことを、僕は後に後悔することになる。
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