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「リュカ君、そこで膝を洗っておいてくれるかしら。ネス君も手伝ってあげて。私、救急箱を持ってくるから」

「はーい」

「あ、ありがとうございます」

屋敷の奥に消えて行くお妙さんを見送り、僕たちは庭にある水道の前に立った。てか、水道あるよ…僕の知ってる江戸は、もう少し文明の遅れた国だったんだけど。
僕がぼやっと突っ立っていると、ネスが早速蛇口を捻って僕に足を出すよう促した。こういう時、ネスはお兄さんだなぁと思う。――本当は僕の方が年上なんだけどね。………。

「…なんか、嫌な予感がする」

僕の膝に付いた小石を流しながら、ぽつりとネスが呟いた。え、と問い返せば、存外彼は真面目な表情で僕を見上げる。

「元よりそのつもりだけど、消毒してもらったら、すぐにここを離れよう」

「なんで……まさかお妙さんが、僕たちの敵…?」

「そういう訳じゃないけど」

ネスは言いにくそうに言葉を切った。
僕とネスは、同じPSIの使い手だ。だけど二人の特徴はまた違っていて、僕の力は攻撃的に出来てるけど、ネスの力は治療系に特化してる。
その影響もあってか、ネスはとてもカンがいい。彼が“嫌な予感”と称するならば、それはきっと悪いことが起こる予兆に違いない。
でも、お妙さんが敵ではないと言うならば、この場所に災厄が振りかかるのだと考えていいだろう。その場合、あの親切なお妙さんはどうなるのだろうか。

「…もう少し、様子を見よう」

「リュカ」

「僕たちはこの世界のことを知らない訳だし。せっかく出来た繋がりだもの、お妙さんに色々聞いて、この世界のこと勉強しよう…それに、悪いことが起こるなら、僕はお妙さんが心配だよ」

「……そうだね。リュカの言う通りにするよ」

ネスは、苦笑いをして肩をすくめた。彼は時々周りが見えなくなる時があるけど、人の話を全く聞いてない訳じゃない。そりゃ、ちょっぴり頑固かなと思うところはあるけどね。

暫くして、救急箱を抱えたお妙さんが戻ってきた。綺麗に消毒をして、大袈裟なくらいに包帯を巻かれる。ちなみにこれは縁側で行われた。縁側から見える範囲、聞こえる範囲では屋敷にお妙さん以外の人の気配はなかった。独り暮らしなのかな?

「あのね、お妙さん」

お妙さんが僕の鼻の頭まで治療をしてくれているとき、唐突にネスが口を開く。お妙さんはなぁに、と優しく尋ね返した。

「実は、僕たち迷子なんだ」

「あら、そうだったの?」

お妙さんは少し驚いたようにネスを見やった。ネスはもじもじと頷いた――あ、あれ演技だな…。

「本当は、他の友達と一緒にこの国に来たんだけど、途中ではぐれて迷子になっちゃって…」

真実ではないけど、嘘でもない。お妙さんは気の毒そうに眉尻を下げた。

「僕たちもそうだけど、他の皆もこの国に来るのは初めてで。…僕たちどうすればいいかなぁ?」

「…そうねぇ…」

お妙さんが顎に手を添えて首を傾げる。僕はちらりとネスを見た。ネスは小さく親指を上げて見せた。

いつも思うけど…この子本当に11才…?

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