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「あら?マルスにネスじゃない。二人一緒だなんて珍しいわねぇ」

午後のテラスでお茶会の最中だった女性陣の元に、ふらりと立ち寄った王子と少年。ピーチの呼びかけに王子は曖昧に笑うのみで、代わりに少年が口を開いた。

「まぁね!今ちょっと実験してるとこなの。ピーチ姫たちも協力してくれない?」

「実験?何の実験をしてるのかしら」

サムスが胡散臭そうに王子と少年を睨む。が、少年は少しも動じず笑みを深めた。

「それを言ったら実験の意味がないでしょ?」

言いながら、少年はさりげなく王子の服を引っ張る。王子はひきつった笑みを浮かべて続けた。

「早い話、僕らが何の実験をしてるのかを当てさえすれば、全てが繋がるって訳」

「へぇー、面白そう!」

身を乗り出して声を上げるのは、ナナ。王子は一瞬、ナナを縋るような目で見たが、ナナ本人はそのことには気付いていないようだった。
一方少年は首を傾げるピーチやサムスたちを満足げに見上げている。と、その時静かにゼルダが声を上げた。

「分かりましたわ」

「「え」」

早々と実験とやらが暴かれそうになったからか、王子と少年はぎくりと肩を揺らした。なになに教えて、とナナとピーチがゼルダに駆け寄る。プリンとサムスは、ゼルダと王子たちを見比べていた。
しかしゼルダは王子たちの方をちらりと見ると、何かを悟ったような微笑を浮かべてこう続けた。

「…けど、私が答えを言ってしまっては詰まりませんわね。答え合わせは後ほど、彼らにして頂きましょう」

『えー、ゼルダしゃんのケチ〜』

てっきり答えが聞けるものと思っていたプリンが体を膨らませる。が、ゼルダはやんわりと微笑むのみ。
抗議の矛先を失ったプリンは王子たちにその照準を合わせようとするが、いつの間にか二人はその場から退散していた。



「さすがはゼルダ姫…といったところか。気付くのが早すぎだ」

ふぅ、と冷や汗を拭いながら少年が呟く。王子は柱の陰から女性陣が追って来ないことを確認してから、少年を見下ろして非難がましく眉根を寄せた。

「ゼルダはそういうのに敏感だから当たり前じゃん。…大体、“僕らが入れ替わったことに皆が気付くかどうかを実験する”なんて、アンタ馬鹿じゃないの」

――つまり、この二人は未だ精神が入れ替わったままで、その状況を最大限楽しもうとした結果、このような実験をすることになったらしい。
少年は瞳を細め、感情の読めない笑みを浮かべる。マルスがよく浮かべる表情だ。

「君の罵倒はそのまま君自身に振りかかることを覚えておきたまえ。最初に僕の案に乗ったのは他ならぬ君だ」

「ぐぬぬ…」

王子は口をへの字に曲げて唸る。これはネスがよく浮かべる表情だ。
それを愉しげに見上げ、少年はあらぬ方向を指差して高らかにうそぶいた。

「さぁ、実験は始まったばかりだ。次のターゲットを探そうじゃないか、“王子”?」

「…ソウデスネ、“ネス君”」



その日の午後、屋敷は騒然としていた。犬猿の仲とさえ呼ばれていたマルスとネスが、何故か仲良く二人並んで屋敷を練り歩き、かと思えば会う者全てに声を揃えてこう言うのだ。

「「ちょっと実験に付き合って」」

そう言いながら、彼らは実験の内容を明かさない。屋敷のメンバーは彼らの思惑がまるで分からず、びくびくせざるを得ない。
マルスと行動をよく共にするリンクやロイ、またネスと行動をよく共にするカービィや子リンに関しては、二人の挙動に違和感を覚えはしているようだが、まさか二人の精神が入れ替わっているだなんてことには思いもよらないだろう。
ちなみに、ことの全貌を知るマリオは、自分の実験室に籠っているので外界との接触は完全に絶たれていた。

マルス、ネスの両人は、初めこそこの実験を楽しんでいた。楽しむ為に始めた実験なのだから当たり前だ。が、それも時間の経過と共に薄れていった。そして、そろそろ日も沈むという時に、彼らはようやく不安になった訳である。

――このまま元に戻らなかったらどうしよう、と。



「もしかしたら、僕たちはこんなことで遊んでる場合じゃなかったのかも」

少年と向かい合って談話室のソファに腰掛けていた王子が、オレンジジュースに入っていたストローをくわえながらぼやく。
何度でも言うが、王子の体にはネスの精神が、少年の体にはマルスの精神が入っている。
一方紅茶の香りを楽しんでいたらしい少年は、一転して険しい表情になって王子の呟きに同意を示した。

「僕もそう思い始めていたところだ。いい加減この低身長は勘弁して欲しい」

「うるさいな、そのうち成長期に突入するよ!アンタの身長なんかすぐさま抜いてやるよ!!」

「おや、君の目標は僕か?それは光栄だな」

「ばっ…馬鹿ー!誰がアンタみたいなモヤシ王子を目標になんかするかッ」

「…君…僕の体でそういう低俗な罵倒を吐くのはやめてくれないか」

「アンタこそ僕の体で足組んで紅茶飲むなよ!すげー嫌な子供じゃん!!」

「…やめよう、全てが不毛だ」

「…そうだね」

それまでは立ち上がって言い合いをしていた二人だが、結局少年と王子は重い溜め息を吐いてソファに沈み込んだ。お互い、自分自身に罵倒を浴びせかけていることにようやく気付いたのだった。

その後、暫く続いた沈黙を破り、唐突に少年が呟いた。

「今思えば、君に僕の体を使わせるべきではなかった」

突然の暴言とも取れる少年の発言に、王子は再び剣呑に眉根を寄せる。

「…何が言いたいのさ」

「だって、僕の体は」

しかし、王子の表情の変化に少年は気付いていないようで、少年は視線を落として苦々しげに続けた。

「血で汚れている」

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