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犬は、はるか昔から人間のパートナーとして歴史の中でもその歩みを俺たち人間と同じくしてきた。
――らしい。
けどさ。犬まで仲間ってどういうこと?天使の次は犬?次は何が来るの?
俺のみならず、新八も完全にフリーズしていた。神楽は逆に嬉しげな様子で「仲間アルか!」とロイを見やった。これはピットの冗談だと信じたかったが、ロイまでもが大真面目に頷いた。
「多分、知らない人がいるから警戒してるだろうな」
警戒されてるのか、俺たち。もう何から驚いて良いのかさえ分からない俺はただぼんやりと、ピットがその犬に向かって「リンクさーん」と手を振るのを見ていた。てかピット、犬にさん付けか…。
それまで物陰に隠れていたらしい犬は、ピットの呼び声に応じて狭い路地からびゅんと飛び出してきた。黒い鋼のような毛並がかろうじて見えたが、俺がはっきり観察する前にその犬はロイの後ろに隠れた。
しかし元々身体が大きいそれはまったく隠れ切れていない。定春には及ばないが、犬の中でもだいぶ大きな部類である。
と、突然犬が鋭い牙の並んだ口を開いた。
『ピット、それからそこのお三方。俺は犬じゃない。狼だ』
――喋った。
犬…自称狼は依然としてロイの後ろに隠れたまま俺たちとピットに向けて言う。が、迫力はなかった。
未だ隠れている狼は放っておいて、ロイが呑気に紹介を始める。
「あぁ銀さん、こいつはリンクです。リンク、この人たちは――」
『いい。聞こえていた』
ロイの紹介を遮って狼――ことリンクが言う。そう主張する彼の立った耳がわずかにピクピクと揺れた。
それからおずおずとロイの後ろから顔だけ出して、リンクは俺たちを見るとお辞儀のように軽く頭を下げた。
『協力してくれるそうだな。感謝する』
「あ、いやぁ…いいってことよ」
狼にお礼言われちゃったよ。恐らく滅多に体験出来ない貴重な出来事だろう。神楽は神楽ですっかりリンクになついて「じゃあお礼に頭撫でさせるアル」とリンクに近付いていった。リンクは少し後退ったが、その後は為されるがままになっていた。
「ところでリンクさん、ピカチュウさんは見付かりましたか?」
神楽に撫で回されているリンクを遠巻きに眺めながら、ピットが尋ねた。実は神楽はピットの羽根も触りたがっていたので、ピットとしては新しいスケープゴートが現れ内心ほっとしているのだろう。
そんなピットの心情を知ってか知らずか、リンクは律義に答えた。
『見付けた。案内するつもりでお前らを迎えに来たんだ』
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