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「…天使、ですか?」

俺たちの誰もが思ったことを、新八が代弁する。ピットはにこりと笑った。

「はい!」

「じゃあ、天国に住んでるアルか!」

「天国…まぁ、似たような所ですね。僕たちは天界と呼んでいます」

神楽が早速打ち解けて、喜々とした様子で尋ねると、ピットは丁寧に返答を寄越した。
ロイよりはいくらか活発そうな印象を受けるピットだが、その言葉遣いはまた幾分柔らかい。…ロイもピットも、年の割に腰が低すぎねーか?
そんなピットは俺たちの方を向くと、はたと小さく首を傾げた。

「失礼ですが、貴方がたは…」

ロイにも軽く視線をやりながらピットが問う。ロイは口を開こうとする俺を制して「こちらは銀さん、新八君、工場長だよ。鍵探しを協力してもらってるんだ」と紹介した。――うん、もう突っ込まないよ。
ピットは俺たちの名を口の中で復唱すると、またにこりと笑って「よろしくお願いします」と頭を下げた。そんな仕草はまさに天使と呼ぶにふさわしい愛嬌に満ち溢れている。恐るべし天使。

俺がしげしげとピットを眺めていると、ふと神楽が俺の袖を引っ張った。
何事かと神楽を見下ろせば、神楽は町の家々の間を指差して口先を尖らせる。その目は何かを期待するようだった。

「銀ちゃん、あそこに捨て犬いたアルヨ」

捨て犬、を強調して神楽が呟く。ロイとピットが犬という言葉に過敏に反応したが、それは気にせず。神楽が言わんとする機先を制して俺はしかめ面をしてみせた。

「神楽、お前これだけ大所帯になっときながらまだ増やす気か。家には定春がいるから他の動物は飼えませんっていつも言ってるでしょ!」

「銀さん…何処のお母さんですか…」

「でも、あの犬このまま放っておいたら保健所に連れていかれちゃうアル!私きちんと世話出来るネ」

「いけませんったらいけません!家は定春だけで大変――」

「あの」

どこぞの親子喧嘩のような言い合いを繰り広げていたところ、ピットが遠慮がちに声を上げた。まさかこの子まで犬を拾ってあげなさいとか言い出すんじゃなかろうかと危惧した俺は、少し身構える。
天使に諭されたんじゃ俺に勝目はない。

――が、ピットが紡いだ言葉は、俺の予想の斜め上を行くものだった。



「あの…その犬、僕たちの仲間です」

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