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「ピカチュウ」

それまで沖田隊長と斬り合っていた青年は、穏やかに笑んで剣を下ろした。そしてそのぬいぐるみに向かって呼びかける。ピカチュウ…というのがあのぬいぐるみの名前なのか?
と思っていると、ぬいぐるみは副長の肩から飛び降りて再び口を開いた。

『マルスとスネークも近くに“落ちて”たんだ。良かった』

「良かったのか…これ…」

言ってスネークとかいう密入国者はちらと横目で青年を睨んだ。青年の足元には簡易デスクのなれの果てが鎮座している。沖田隊長相手にこれだけの被害ならば、まぁよく抑えた方ではある。
そんな非難がましいスネークさんの視線をものともせず、青年はぬいぐるみだけを見据えて続けた。

「今回のリーダーは君だろう、ピカチュウ。面倒だが、それがルールだ。早く指示を出してくれないか」

『そうだね』

「…おい、ちょっと待ちなせェ」

唐突に今まで黙っていた沖田隊長が口を挟む。沖田隊長は青年、スネークさん、ぬいぐるみ、副長を順に睨んでから、一番話の通じそうなスネークさんに目を止めた。
「さっきから内輪だけで話なすって、一体何様のつもりでさァ?テメェらは仮にも逮捕されてんだぞ、痛い目見たく無かったら大人しくサツの言うこと聞きな」

で、出た…!沖田隊長のドS顔!!一体あの人の拷問で何人の攘夷浪士が口を割ったことか。
スネークさんはどうしたものか、というようにぬいぐるみを見た。やはりぬいぐるみがリーダーなのか、その様は指示を仰ぐようでもある。

と、ぬいぐるみがとことこと歩き出した。可愛いらしいつぶらな瞳と黄色い毛並に似合うギザギザの尻尾が歩く度に左右に揺れる。副長がやや動揺したように声を上げたけど、それを不思議に思う前に、ぬいぐるみが喋り出していた。

「サツだかなんだか知んねーがな…ボーズみてぇなヒヨッコががたがた口出すんじゃねぇよ」

「「………」」

え?何これ。え?
今までただのぬいぐるみかと思っていた生き物は、その可愛いらしい口から極道の総締めみたいな台詞を吐いた。声は変声期前の少年のそれだから、いよいよミスマッチだ。副長が背後で頭を抱えている。青年とスネークさんは平然としているから、これがこのぬいぐるみの素の顔なんだろうか。



とにかく、こいつらは何かが普通ではないことがよく分かった。

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