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OKITA SIDE

俺は真選組一番隊隊長、沖田総悟。
自慢だが、隊士の中じゃ一番腕が立つ。あの土方コノヤローでさえ剣の腕で言えば俺には敵わない。ざまーみろィ。

で、その日俺は江戸の見回りの為に屯所から出て来ていて、いつものようにサボりながら仕事をしていた訳だ。
え、矛盾してる?それは言わねぇお約束でさァ。
まぁ、いつものように適当にブラブラして、帰るつもりだったんだが。

――どうしたことか、その時俺は、目を剥いて眼前の男を睨んでいた。

「…テメー何者だ」

「おや、こういう時は自分から先に名乗るものだよ」

噛みつきそうな俺と、涼しい顔のソイツ。
その間でギリギリと擦れているのはお互いの刀。いや、相手の得物は西洋刀だ。あの重厚な刀身からはひしひしと重い剣圧が伝わってくる。

その男の容姿は、明らかに日本人離れしていた。蒼い髪、蒼い瞳、あの夜兎のチャイナにも近い白い肌。すらりと伸びた長い手足。

今俺は真選組の隊服を着ている。なおかつ俺は割と有名だ。この爽やかルックスのおかげでこの江戸で俺を知らない奴は少ない。
要するに何が言いたいかというと、俺の強さ(ついでにいうと人格も)を知っていながら喧嘩を売る馬鹿はいねぇってこった。つまり、コイツは俺のことを知らねぇ馬鹿。

それにしても、男か疑いたくなるような軟弱な体つきのくせに、この威圧感のでかさはなんだ。一瞬コイツも夜兎なんじゃねぇかと疑ったが、それにしちゃあ傘がねェ。

「…仕方ないな、僕から自己紹介しよう」

ふぅと溜め息を吐いたソイツは、さらに俺の刀を圧して来た。仕方なくヤツを見上げるような形でそれに耐えると、やはり涼しい顔でソイツは続ける。

「僕はマルス。職業は王子兼戦闘員。特技は人の欠点を見付けること、趣味は蟻の巣をほじくり返すことだ」

嗚呼。この時俺の脳裏に浮かんだのはまさにこの一言。



この野郎、サイテーだ。



「さぁ、僕は名乗ったよ。君の名前も教えてく…」

「ふざけろィ、テメーなんぞに名乗る名はねェ」

無理矢理鍔迫り合いを弾き上げて距離を取り、びしりと切っ先を野郎に向ける。
にも関わらず変わらねぇ表情は、へらへらふらふらしやがってまったく気に食わねぇ。
が、唐突にその表情が変わった。それは、玩具を取り上げられた子供のようなふてくされた悔しげなカオ。

「…スネーク、いきなり拳銃を脳天に突き付けるなんてご挨拶だな」

「お前はこうでもしないと止めないだろうが…つか登場早々喧嘩してるんじゃねぇ。止める方の身にもなれ」

ひょろい男の頭に銃口を押し付けているのは、やはり俺の知らねぇカオ。ひょろいのとは対照的に、がっしりとした体に彩度の低い服。歳の程は俺たちより一回り…いや、二回りは上か。不精ヒゲなんだかお洒落なんだか分からねぇヒゲを生やしていて、…やっぱり気に食わねぇ。

と、そこでおやじの方が俺の存在に気付いてぎこちない愛想笑いを浮かべる。

「すまないな坊主、コイツは俺がきつく叱っとくから、今回は大目に見てくれないか」

果たしてそれは、俺の職業を知っての戯言か――

「ご免被りまさァ。この真選組一番隊隊長の公務執行妨害及び銃刀法違反につき、お二方とも神妙にお縄に付きやがれ」

激しく抵抗されるかと思いきや、その親父がひょろいのの頭をげんこつで殴った以外、二人は大人しく俺の言葉に従った。

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