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HIJIKATA SIDE
真選組、屯所内某所――
この間松平のとっつぁんが出した“禁煙令”は、とっつぁん自身がニコチン不足で早々と解除し、屯所内にも晴れて喫煙コーナーが復活した。他の隊士たちは不平を述べたが、そんな奴らは切腹だ。
俺からこの至福の時を奪おうとする奴は、たとえ女子供仲間だろうと関係なくぶった斬る!
……と言いてぇところだが。
『…それって、子供の電気鼠の僕も対象になるのかなぁ』
今、俺の目の前でそうぼやいてみせたのは、女子供でも況してや隊士などでもなく、小さな黄色い動物だった。
先程何処からともなく降って湧いたコイツは、俺の至福のニコチンタイムを邪魔した憎き悪魔に相違ない。が、あんなつぶらな瞳で見上げられては、肩の力も抜けるというもの。
「…もういい。怒ってねぇからさっさと家帰れ」
『家がないの』
「迷子かテメー」
『…まぁ、人生という路頭に迷ってはいるかな』
…舐めてんのか、コイツ。
俺ははぁと溜め息を吐き、縁側の角でとんとんと煙草の灰を落とす。黄色いやつは嫌そうに顔をしかめた。
『…お兄さん、スネークと同じ臭いやつ吸ってるんだね』
「臭いやつじゃない、煙草だタバコ」
『受動喫煙の方が体に害があるんだよ』
「…さっきから何なんだテメーは」
最初は子供(本人曰く)だと思って相手をしてやっていたが、この図々しいというか馴れ馴れしい生き物に段々嫌気の差してきた俺は剣呑な眼付きでそれを睨んだ。
真選組でも鬼の副長と呼ばれるこの俺の睨み。この殺気の前にあれば、大の男だって尻尾を巻いて逃げ出すこと請け合いだ。
しかしそれはギザギザの尻尾を巻くどころかパタパタと振って、嬉しげにこちらに近付いてきた。
…分からん。
『お兄さん、強そうだね。名前聞いてもいい?』
挙句、こんなことを言い出す始末。何なんだコイツは。攘夷派のスパイか。
「…土方十四郎」
――それでも答えてしまうのは、このいかにも無害そうな愛くるしい生き物の見た目のせい。
『ヒジカタさん?変わった名前だなぁ。僕はピカチュウ、よろしくね』
「…テメーの方がよっぽど変わってねぇか」
『そうかなぁ…ま、多分そのうちに慣れるよ』
しかも何やら、勝手に友達認識されている。
あれ?本当…いつの間に?
俺の動揺とは裏腹に、ソイツは縁側に腰掛けていた俺の膝にぴょんと飛び乗り『このお茶受け、一つ貰っていーい?』と、いつの間にか俺の横に置いてあった盆(茶と団子が乗っている。多分山崎が気を利かせて持ってきたんだろう)から団子を取り上げて言った。
特に断る理由も思い浮かばず頷くと、ソイツは酷く幸せそうな顔をしてからはぐ、と団子にかぶりついた。
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