3

「ああああ!!」

が、ロイは何故か絶叫して突然立ち上がった。少しびっくりした俺はソファに座ったまま微かに後退る。なんかこの子…怖いんだけど。
新八は平然として「どうかしたの、ロイ君」なんて普通に会話してやがる。「新八君」とロイはやや落ち着いたのか、声のボリュームを下げた。というかお前ら、さっきの片付けの間にだいぶ仲良くなったのね。

「いや、落ちてきた時に大事な仲間とはぐれたというかなんというか」

「曖昧アルな、はっきりするヨロシ」

「す、すいません…あの、俺も意識が曖昧で、置いていかれたのかはぐれたのかよく分からなくて…」

相変わらず高圧的な神楽にビビるロイ。しかし人んちの屋根突き破るような仲間だったら、置いていきたくなる気持も少し分かるかもしれない。てか、ロイ、お前他人のフリされてんじゃねーの。
と、そのロイが困ったように俺を見つめて沈黙した。そこでようやくまだ自分の名前を名乗っていないことに思い至る。神楽もだな。新八は勝手に抜け駆けしてやがるからハブだ、ハブ。

「まだ自己紹介してなかったな、俺は坂田銀時。銀さんって呼んでくれ」

「神楽アル。工場長とお呼び!!」

「はぁ…銀さんに工場長」

「いや、ロイ君!工場長は真に受けなくていいから!」

思いがけずボケキャラを炸裂させるロイ。そんな彼を今更ながら観察する。小柄な青年だが、恐らく一般庶民ではない。着けている甲冑、マント、或いは服などどれも高そうな輝きに満ちている。
いや待て、甲冑だと?
ふと特に高そうな装飾の施された棒のような物に目が留まる。腰に差された、小柄な青年には幾分不釣り合いな大きさのそれは――

「ロイ、それ真剣か」

「え、あ、はい」

ロイは腰に差した剣を指差して少し気恥ずかしげに笑った。いや、剣持ってるって指摘されて照れる理由が分からんのだが。ロイがどのような生活圏で暮らしていたのかは知らないが、こちらとしてはますます正体不明の闖入者に猜疑の念が強まる一方だ。
――まぁ、そんな小難しいこと考えてんの、多分俺だけだな。

仕方ない、この際はっきりさせておこう。俺としても潰れかかった道場の跡継ぎとか、はぐれ夜兎の小娘とかで手一杯だから、これ以上面倒事持ち込まれても堪ったもんじゃねぇ。

「ロイ、今更だがお前何処から来た?っつーか何の目的でこんなとこに来たんだ?まさか地球侵略とか言わない?」
「俺一人じゃ地球侵略なんて無理ですよ。何というか、平たく言うと俺は世界を救う為に異世界から来ました」



「「「…は?」」」



俺と神楽、新八の疑問詞が綺麗にハモる。
ちょ…ちょっと待って。色々と爆弾発言が聞こえた気がするんだけど。
世界を救う?異世界から来た?一体何処の安いRPGですかコンニャロー。
固まる俺たちを見て少し焦った様子のロイは、やや慌てたように手を振る。

「あ、誤解しないで!救うってそんな大それたことじゃないんだ。俺たちの住んでる世界の時間が止まったから、それを動かす為に必要な鍵を集めてる最中で…」

「そんな世界の救世主サマがこんなところで何油売ってるアルか。さっさと鍵でもドラゴンボールでも探して来いヨ」

「神楽ちゃん!?言い過ぎだよ!ロイ君ごめんね、この子こういう子で…っていうか時間が止まる!?そんなことあるのォォォ!?」

「おい新八、お前が落ち着け。とりあえず、もう一度聞くぞロイ。お前は異世界から来た、でいいな」

すぐにでも口を開きたがる神楽と新八を抑え、何とかロイと向き合う俺。ロイはくるりとした群青の瞳で物怖じもせずにこちらを見返した。

「はい」
「で、この世界になんかよく分からんが“鍵”を探しに来た」

「そんな感じです」

――おいおいおい、ばっちり面倒事抱えてるじゃねーかコイツ!しかもこのパターンは「この辺の地理に詳しい方に手伝って頂きたいのですが…」ってモロ巻き込まれる王道パターン!!やばい、誰か巻き込まれフラグを折れ!頼むよ300円あげるから…!

「…あの、話戻りますけど本当に屋根壊してすいませんでした。これで足りればいいんですけど…受け取ってもらえますか、銀さん」

――あれ?もしかして俺が躍起になってフラグ折らなくても、ロイの方からフラグ折ってくれた?
ロイは鍵探しを手伝えだの何だのと図々しいお願いをする訳でもなく、屋根の修理代と称して宝石のような物をじゃらりと取り出した。素人目だが、ひとまず屋根の修理代として余ることはあっても足りんことはなさそうだ。え、何この子。一体何処の貴族?

「では、長らくお邪魔しました。俺はまずはぐれた仲間を捜さなきゃならないんで、これで失礼させて頂きます」

深々とお辞儀をしてから、爽やかな笑みと共に去っていくロイ。な、何この子!?なんて…世界の救世主には珍しい謙虚な子なの!

「待つアル」
と、ここで工場長――じゃなくて神楽がロイを呼び止める。何故か新八も神楽の横に並んでいて、にんまりと笑って俺に一瞬目配せした。――え、何する気なのこの子たち。

「江戸は広いアル。どうせお前なんかが探したところで鍵も仲間も見つかる頃にはシワクチャのじーさんになってるアルよ」

神楽が言う。新八が続けた。

「どうせ探すなら大人数で探した方が効率いいですよ。それに、ここであったのも何かの縁じゃないかな」

「オイこら、待て新八!何かの縁って何だ!?お前ら今何言ってんのか分かってるのか…」

せっかく折れたフラグがァァァ!!せっかくロイが折ってくれた巻き込まれフラグがァァァ!

「ロイ君、その世界の鍵探し、僕たち万事屋に依頼してみない?」

「ちょ、ちょっ…待っ…!」

「え、いいんですか!?ありがとうございます、ちょうど心細く思ってたんで…よろしくお願いしますね、銀さん、工場長、新八君!」

そんなっ…そんな爽やかな笑顔で俺を見るなァァァ!!こんなんなったらなぁ…こんなんなっちまったらなぁ!!

「よーし、ロイ。全て俺たち万事屋に任せとけ」

って言うしかなくなっちゃうだろーがぁ!



…って。

もうなっちゃったじゃねぇかァァァ!!

[ 5/53 ]

[*prev] [next#]


[←main]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -