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「お前に、決闘を申し込む」


ようやく“目的の人物”を捜し出したアイクは、その人物に近付くなり、愛剣ラグネルの剣先を向け、静かにそう告げた。



【戦術指南】



その時僕は彼の背後にいたのでその表情を見る事は叶わなかったのだが、そう言われた人物−フォックスが、彼にしては珍しく少し狼狽えた様子で「俺、何かしたっけ?」と尋ねていたところを見ると、その表情は険しいものだったのかも知れない。

アイクがこのような態度をとっていても、メンバー全員を統率する彼はこんな些細な事で起こったりはしない。…と言うか、気にしすぎていれば身が持たないだろう。しかしそれは“彼”の話であり、側にいたファルコはその行為に当然ながら怒りを露にし、自身も愛用のブラスターを構える。


「テメェ、人の相棒に物騒なモン向けるなんざいい度胸してんな?まずは俺が相手になってやる」

「お前に用はない。俺はフォックスに決闘を申し込んだんだ」

「…“決闘”?」


僕の後ろでルフレがぽつりと呟いたのを聞き、ようやくアイクの言い回しが少し間違っている事に気付いた。

非公式の試合を申し込む上でここでは“決闘”という言い方はふさわしくないとマスターにも言われたばかりだ。僕は慌ててアイクの肩を叩き、訂正を促す。


「アイク、違うよ。僕が言ったのは“場外乱闘”の事だ。…大差ないけど、ここではそう言う決まりになっている」

「…む、済まない。では改めて、お前に“場外乱闘”を申し込む」

「別に構わないけれど、そもそもどういう経緯なんだ?」


フォックスの疑問も最もだ。僕は事の顛末を一から説明する事にした。

スマブラの組織が“for”へ移行し、僕たちと“同郷”の者は再び人数を増やす事となった。

彼らももちろん戦場での経験は豊富だが、ここ“スマブラ”での戦いは一筋縄ではいかない。

彼ら−ルフレとルキナに“スマブラでの戦い方”を見せてあげたいと思った僕は、アイクに「誰でもいいから場外乱闘−所謂非公式の試合をしてほしい」と依頼したのだ。

誰でも、と言ったのは下手に僕が指定しない方がいいと思ったし、何よりアイク自身が何を考え誰を選ぶのか興味があったからだ。

そしてアイクが選んだのが、フォックスだったと、こういう経緯である。

僕の話を聞いてファルコも納得してくれたのか、そっとブラスターをしまう。


「そう言う事ならさっさと言えよな。…つーか、こいつでいいのか?あいつらもテメェと同じ剣士なら、他にもっといい相手がいるんじゃねぇのか?」


例えばリンクとか、とファルコは言うが、「かまわん」とアイクはその言葉を遮る。


「“スマブラでの戦い方”なら、俺と正反対の奴の方がいいだろうと考えたんだ」


それに、と彼はもう一つの理由を述べる。

どうやらアイクはルフレやルキナの事も考慮し、彼が戦略を練る事が得意だという事、彼女が僕と同様に剣士の中ではスピードがあり、軽量である事を踏まえた上で“場外乱闘”の相手をフォックスに決めたみたいだ。

彼は彼なりに“後輩”の事を考えているのだと、こういう場でありながら少し嬉しくも感じる。


「それが彼らのためになるなら、引き受けるけど」

「そこまでは俺も知らん。この試合で何を学ぶのかは、あいつら次第だ」

「…なかなか厳しい“先輩”だな」


そうは言いつつも、フォックスはアイクの依頼を快諾してくれたみたいだ。先程のひと悶着を見、不安そうにしていたルフレやルキナに声を掛け、僕たちはその会場へと足を運んだ。


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