2

愉快な作戦会議は難航する。山賊という割に烏合の衆ではないらしい彼らは、統率の取れた体制と研ぎ澄まされた動きからかつては正規の軍人であったと推察される――とはガノンドロフの言葉だ。正面から攻めるのはさすがに得策でないとの意見は満場一致で、そうして取られたのは背後からの奇襲である。
それまで彼らがいた崖上というのは、眼下に古城を見下ろす絶好の奇襲ポイントだったのだ。本来ならば断崖絶壁のそれは侵入者を阻む自然の要塞だったはずだが、二人は道なき道を行く勇者であり、一人は歩いたそこが道になる魔王である。
崖上からフックショットとクローショットで古城の屋根に移動したリンク二人は、息の合った歩調で難なく窓のある場所まで進み、それを悠々とガノンドロフが追う。どこで習得したのか手際のいいピッキングで古城の窓を外から解錠し、静かに扉を開ける黄昏。そうして音もなく内部に体を滑り込ませると、降り立って一番に時のが呟く。

「烏合の衆でないなら、親玉の影響力が絶大でしょう。親玉を探しましょう」

とはいえ、彼らはここに来てわずかな時間山賊を観察したに過ぎないし、入念に下調べをした訳でもない。親玉の位置など分かるはずもないが、そこはそれ、長年の勇者の勘×2がある。
程無くして、見張りに見つかることもなく彼らは大部屋に辿り着き、その大扉を開いたのである。

「何者だ」

大勢の武装した屈強な男たちの視線が一斉に三人に集まり、その最奥に鎮座する一際重厚な鎧を纏った男が気だるげに言った。それを合図にか、男たちは瞬時に武器を構え、三人を取り囲む。が、全く動じずに時のが答える。

「チーズが欲しくて」
「なら来る場所を間違えてるなぁ!」

卑下た笑いと共に男の一人が棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。が、時のに殴りかかった男は横から伸びてきた黄昏の拳で吹っ飛ぶ。黄昏は拳を握りしめたまま唸る。

「父さんに用があるならまず俺を通してからにするんだな」
「ちょっと、貴方みたいなでっかい子供がいるなんて勘違いされたくないです私」
「やりやがったなテメェ!」

リンク二人が余所見をしている間に、また別の男数人が襲い掛かってくる。しかし、今度は魔王が進み出て、気合の一声と共に彼の拳が禍々しいオーラを纏いながら床を叩き割る。巻き添えじゃないですか、と叫ぶ時のは既にその場になく、並み居る男たちの頭上を飛び越えて豪奢な長机に着地している。黄昏は天井のシャンデリアにぶら下がり、状況を見下ろしている。魔王は舌打ちした。

「かわしたか、諸共に潰してやろうと思ったが」

吐き捨てる魔王の周囲には大勢の男たちが鎧ごと吹き飛ばされて伸びている。残る山賊たちも迂闊に手は出せないと踏んだか、距離を保っている。そこでようやく、沈黙を保っていた山賊の頭領が立ち上がる。それに気付いた山賊たちはまた怯えたように数歩後ずさった。

「ほう…これはなかなか…。只者じゃないな、お前たち。気に入ったぞ」

頭領はかつこつと靴音を響かせて進んでくる。時の、黄昏、魔王の三人は顔を見合わせ、無言で何事かを言い争う。が、時のが口に出して「言いだしっぺは貴方でしょう」と指摘すると、観念したのか黄昏が天井から降り頭領の前に立った。頭領は兜の下でにやりと口角を釣り上げた。

「名を聞こう、勇敢な侵入者よ」
「…リンク」
「いい名だ、私はヴィ」
「はいはい」

皆まで聞かず、黄昏のチェーンハンマーが炸裂する。抜刀の暇すら与えられず、鉄球に直撃した頭領は壁まで吹き飛ばされて、くの字に折れ曲がって沈黙した。白目を剥いて気絶している。一瞬で頭領を倒され、途端に烏合の衆に成り果てた山賊の残党は、戦意を喪失していたが、しかしそんなことは時のにも魔王にもチェーンハンマーを振り回す黄昏にも関係のない話である。

「恨みはないが、チーズのために倒されてくれ」


コトコトと煮込まれる鍋の横に座り、香りのよいチーズをナイフで薄くスライスして溶かし入れる黄昏。その横で同じように椅子に腰かけ鍋をかき混ぜる時のが、一口すくって味見する。ふむ、と頷き彼は黄昏に言った。

「もうチーズはいいんじゃないですか?」
「そうかな」
「美味しいですよ、とても」
「よかった」

ふにゃりと笑って黄昏はガノンドロフを振り返る。結局報酬のシチューを受け取りに来ていた魔王は、うむと唸って人数分の皿を差し出す。それに丁寧に黄昏がシチューを盛りつけ、時のがバケットを切り分けて木皿に盛る。

「って、なんで私たちが食卓を囲んでるんですか」

時のが今更気が付いたというように魔王を睨んだが、いいじゃないかと盛りつけを終えた黄昏が席に着く。

「こうやって誰かと食卓を囲むの、好きなんだ」

邪気のない顔でそう言われて、時のと魔王は顔を見合わせる。うきうきとスプーンを握る黄昏を見て、何かを言う気力も失せたらしい二人はおとなしく椅子を引いてそれぞれ座った。黄昏を囲む形で座る。

「ああ、本当に美味しい!」
「…うまいな」
「ええ、彼が作ったのですから当然でしょう」


[ 2/3 ]

[*prev] [next#]


[←main]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -