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 翳りの見えない光に、目を細める。太陽光の様な、眩む明るさだ。その純粋さに拍車がかかっている。悪く言っている訳ではない。ただ、僕が、勝手に、彼との間に線を引き、深く入り込まないようにしているのである。汚れてほしくなかったんだ。清らかなままでいてほしかったんだ。だから触れないでいた。それなのに。心の底から湧き上がる欲求には逆らえなかったらしい。気付いた時には手遅れだった。思わず謝罪の言葉を口にする。しかし。

「俺は出来た人間じゃない」

 こんなことを彼は言う。


黒点に鳴く


 唐突に、本当に何の脈絡もなく、椅子に座ってトーナメント表を確認しているアイクの後ろから腕を回した。振り向いた時に表情が見えてしまわないように、肩口に額を預けて。突然された言葉の無い抱擁にどう応えれば良いのか分からないのだろう。彼は動かなかった。薄い椅子を隔てている為、骨が軋むほど強く抱きしめてはいない。だから腕を振り解こうと思えば、いとも容易く解放されるというのに。抗う素振りも見せず。じっ、と。そこで呼吸をしている。時折鳴る紙摩れの音が抵抗だとしたら笑ってしまうけれど。

「離せって、言えばいいのに」
「言ってほしいのか」
「いや、言わないで」

 深夜特有の静寂の中、与えられる体温を持て余しながら会話を進める。領域に踏み込んだことを、この男は気付いているのだろうか。口にしなければ欲しい答えは返ってこないことぐらい把握している。けれど、僕は現在進行形で太陽の黒点を増やしているのだと、文章を並べたりしても意味は無い。ぱちり、と、丸い藍鉱銅を疑問の色に染めて説明を求めるに違いないから。このままで良いのだ。自己満足で終わらせるべき問題なのだ。アイクはずっとこれからも何者にも穢されず、真っ直ぐに伸びた道を歩んでいくのだ。ああ、本当に眩しい。そして。
 …―――真っ白だ。
 なんて。無意識に、思考が落ちた。そのささやきを拾ってしまったアイクが放った声が、冒頭内の、文字の並びになる。

「過大評価しすぎだ」
「…そう?少なくとも僕は、君が汚れているようには見えないけどね」

 肩から額を外し、腕の拘束を解きながら思ったことを連ねていく。男の方に視線を向ければ、表ではなくこちらを捉えていて。彼の双眸に自分の姿を見る。
 数多くの命を奪って尚、蒼色の瞳は濁ることを知らない。硝子玉のように澄み、極稀に感情を映さないそれは、何処か居心地を悪くさせる。それでも、この人間の視界に自分が入り込むというのは気分が良い。結局、少しばかりの侵入では汚れないのだ。僕の、愛しいという感情がどこかしら捻くれているだけだったのだ。今更。本当に今更だ。
 ひっそりと苦笑する。それを知ってか知らずか、それとも喋らなくなったことを不審に思ったのか分からないが、王子、と呼ばれた。返事をしてみれば、トーナメント表を机に置いたアイクの口角が上げられて。

「らしくない」
「それ、本気で言ってるなら、口塞ぐよ」
「残念だったな。本気だ」
「上等」

 生意気な太陽め。黒点に鳴け。

***
ツイッターで盛り上がって作ってもらいましたヤッタ!!
アイマルもいいけどマルアイも新境地でいいですね(ジュルリ

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