by京
「マルスを知らないか」
今日、何度目になるか知れない台詞を口にする。後ろから付いてくる黄昏の勇者は何処か呆れたように苦笑したが、問われた方の時の勇者は、よく似通った端正な顔を不愉快そうに顰めた。
「アイク…貴方一体マルスの何なんですか。あの人が何処で何をしていようと、あの人の勝手ですよ」
「いや、待ってくれ父さん、実は…」
「だから私は貴方の父親じゃないって何度言ったら分かるんですか?!」
黄昏の勇者が何とか間を取り持とうとするが、時の勇者は一層危険な角度に眉を吊り上げ怒鳴り散らした。親子関係認知の道は未だ険しい。
黄昏の勇者はしょぼんと肩を落として黙り込んだが、アイクは怯まずに続けた。
「マルスが剣を置いて出掛けたようだが、誰も行き先を知らない」
「剣を…?」
ここでようやく時の勇者は話を聞く気になったのか、続きを促すようにアイクらを睨む。アイクは頷いた。
「朝から姿を見ないから、少し心配だと話していたところだ。アンタなら行き先を知ってるかと思ったんだが」
「…私も知りませんが…」
「…そうか。手間をかけさせて悪かったな」
普段からあまり表情の豊かでない青年は、しかし目に見えて落胆したようにそう答え、踵を返した。それに同情した訳ではない、と自身に言い訳しながらも、思わず時の勇者は立ち去ろうとするアイクを呼び止めていた。
「…マルスは」
アイクと自分の息子を名乗る青年が振り返る。二人とも出会って日が浅く、仲間としての意識も明確に芽生えない存在だが、マルスという共通の仲間が彼らを結び付けていた。
「剣を置いていったのでしょう?なら、街に向かったのでは」
アイク、黄昏の勇者両名が顔を見合わせる。思いもよらなかった、とでも言いたげだった。
…頼りない。残念ながらこの二人、頭を使うことにかけては人任せなようである。時の勇者はやや考え込む風に顎に手を添え、それから二人を見た。
「何やら貴方たちだけでは不安ですね。私もマルスを探すのを手伝いましょう」
まぁ、大方何処かで道草を食っているのでしょう、と時の勇者は笑った。そうだな、とアイクも吊られて表情を緩め、ちらりと脳裏を過った嫌な予感を一笑に付したのだった。
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