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OKITA SIDE:3

「沖田隊長」

浅い眠りから覚醒を余儀なくされ、不機嫌に起き上がってアイマスクを脱ぎ去り、自分を呼んだ隊士をパトカーの上から蹴り飛ばす。それなりに日差しは朗らかで、パトカーの上はいい昼寝スポットだった。――それを邪魔されて怒らないものはいないだろう。

「…で、なんでィ。例の奴らでも攻めて来たか」
「い、いえ。副長から無線が繋がってます…」

地面にすっころんだ隊士は、情け無い声でパトカーの運転席辺りを指差しながらそう言った。土方コノヤロー俺の眠りを妨げやがって醤油を1リットル飲んで死んでくんねぇかな。
勿論そんな内情はおくびにも出さない。俺は無線機を取った。

「はい、こちら上司の安眠妨害に遭ってすこぶる不機嫌な沖田です、どーぞ」
『総悟テメェ……まぁいい。突然で悪いが、数人連れて歌舞伎町まで行ってくれ』
「へ?お偉いさんの警備はどうなりやした」

そもそもすることもなく俺が昼寝をしていたのも、先程急遽言い渡された「幕府要人の警護」のせいである。
少し前に、ピカチュウ、リンクと名乗る者たちが真選組の警備の目をかいくぐり、土方さんの元までやってきたらしいが、基本的に現在真選組は非常に手持ち無沙汰だ。
土方さんは溜め息混じりに答えた。

『今のところ変わりない。だが歌舞伎町の方で、どうも天人の大使が攘夷浪士に襲われたらしい。犯人が逃げて、大使はえらくお冠だそうだ』
「やっぱり屯所に残してきた奴らだけじゃ駄目でしたかィ」
『だな』

シュボ、と無線の向こうでライターの音がする。こんな時まであの人はタバコを吸わにゃ生きてけないらしい。肺ガンになって死ね土方――とは言わず、俺は無線機に告げる。

「願ってもねェことですよ。正直守るのは性に遭わねェ」
『だろうな。ひと暴れしてこい』
「了解…!」

珍しく土方さんからの依頼を快諾し、運転手とお供の隊士二人を連れてパトカーに乗り込み、辛気臭い江戸城を後にする。
今日は気に食わねェ奴――マルスとかいうふざけた男――に出会ってむしゃくしゃしている。こんなときに騒ぎを起こして俺に捕まりに来てくれる攘夷浪士に半ば感謝しながら、俺はパトカーの後部座席で再びアイマスクを付けて昼寝の態勢に入った。

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