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TERUHIKO SIDE:3

母ちゃんの表情が険しくなる。それまで華やいでいたお店の雰囲気が突然重くなった。アイクさんに至っては天人に掴みかからんとするので、僕が着物の裾を引っ張って引き止めた。
戸口には店の前で呼び込みをしていたオカマが、爆風に巻き込まれて倒れている。恐らくこの店に天人を入れまいとしたんだろう。大したことはなさそうだけど、ぞっと背筋が寒くなった。
天人たちは蔑むように店内を見渡し、それから横柄な口振りで言った。

「数刻前、この辺りで我々幕府の者に襲いかかった二人組の狼藉者がいた。犯人は尚も逃走中である。捜査に協力願いたい」
「幕府のお役人様の面子の為に、ウチの戸口を吹き飛ばした訳ね。納得だわ」

アゴ美さんが天人の前に進み出て答える。それに倣うようにぞろぞろとオカマたちが母ちゃんを守るようにその前に立ち、天人を睨み付ける。僕からはすっかり天人の様子が見えなくなった。
天人は馬鹿にしたように鼻で笑って続けた。

「犯人の特徴は青い髪、赤い外套、金の大剣だそうだ。もう一人の犯人は捕まえたが、何しろ子供で言うことが的を得ない」

青い髪、赤い外套。そんな人物をつい最近見たなと思って、はっとする。
それはまさに、ここに来た時のアイクさんの恰好だ。アイクさんが険しい表情で天人たちを睨んで、身構えるように体勢を低くする。それを横目で見ていた母ちゃんが小声で制した。

「やめときな。ここで騒ぎを起こされたんじゃ、何の為にアンタを助けたか分かんないわ」

一瞬、間を置いて、アイクさんが母ちゃんを振り返った。

「…俺が追われていると知ってて拾ったのか」
「捕まってる子には可哀想だけど…もう少しの辛抱よ、我慢して」

シャドウで塗りたくられたまぶたの下で、母ちゃんが大袈裟なウィンクする。アイクさんはまだ迷うように視線を泳がせていたので、僕も小声で母ちゃんの意見に同調した。

「何があったかは知らないけど、今は母ちゃんの言うことを聞いて…ね?」

果たして、アイクさんは神妙に頷いて肩の力を抜いたのだった。

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