日記50(蒼騎士)

酷い臭いがしていた。

辺りには血と肉が散乱し、それに機械から漏れ出た黒い油が混ざっててらてらと不気味に光っている。所々その油に燃え移った炎が明滅していて、月もない夜だというのに視界は随分と良かった。

ぐちゃり、と血でぬかるんだ泥を踏む音がする。振り返ると、不愉快そうに肉塊を踏み越えるメタナイトの姿があった。

「酷いものだな」
「嗚呼」

即答した。よもやこのような世界にまで来て、戦場の惨劇を目にするとは思っていなかった。――否、まだ祖国で経験した戦争の方が幾分マシだったかもしれない。

「奪う戦いは不慣れかい?」

飄々とした声が上から降ってくる。一人敵陣に突っ込んでいったマルスが、崖上からこちらを見下ろしていた。
あれだけの戦いの後で、息一つ上がっていない。もとから得体の知れない男だったが、今回の襲撃でことさらに謎の増えた気がした。

「…あまり無茶はするな」

敵の姿を見た途端に、「君たちは邪魔だ」と吐き捨て、単独で荒野に駆けていったマルス。数え切れないほどいた敵勢の多くがマルスを追い、――とここでようやく奴が囮を買って出たのだと気付いた。
一人にしておいても、恐らくマルスは敵を殲滅して帰ってくるだろう。だがそうは言っても仲間としてその戦法は容認出来ない。

しかしマルスは不機嫌そうに眉を吊り上げ、挑戦的に笑った。

「無茶?僕をバカにしてるのかい。あの程度の雑魚、目隠ししていても倒せるさ」
「マルス、あまり己の力を過信するな」
「僕は正しく自分の力量を理解しているよ」

メタナイトの諌言もマルスはどこ吹く風といった体である。実際、マルスの剣技はあざやかで、力こそ弱いものの、俺もメタナイトもマルスから一本だって取れたことはない。また、殺しにも慣れているようだった。
マルスはぞっとするような冷笑を浮かべた。

「うっかり僕の射程に入らないようにね。斬り殺してしまうから」
「それはないだろう」

思わず反駁する。きょとんとするマルスを前に、俺は訂正した。

「お前程の手練れが、敵と味方を間違えるはずがない。違うか」
「…え、あ…まぁ…」

マルスは歯切れ悪く頷き、それから何故か呆れたように肩を落とした。

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