日記48(バトロワパロ)

突然知らないところに連れて来られて、訳の分からないままに殺し合いを命じられて、首には爆弾付きの首輪を付けられて、荷物と武器を渡されて無人島に放り出された。
PSIは使えたけれど、テレパシーだけは何かに妨害されて使えない。辺りは既に真っ暗で、僕は途方に暮れて立ち尽くした。
とりあえず前に進まなきゃ、と根拠のない義務感に駆られて茂みに分け入る。途端に足を滑らせて斜面を転がった。泣きたくなった。

ポポは無事だろうか。首輪が爆発して、血だらけだった。救急車はもう来た頃だろうか?それともあのままあそこに放置されて、死――

「…君、ネス君…生きてるかい…」

泥の中に突っ伏していたら、聞き覚えのある声に起こされた。顔を上げると、安堵した様子のマルスがこちらを見下ろしていた。
そういえば、ポポの首輪が爆発した時、真っ先に僕を引き寄せて目隠しをしたのはマルスだった。

「王子…」
「立てるかい?どこか怪我を?」
「ううん、少し躓いただけ」

平気だと言っているのに、マルスは僕を抱き起こして、ぱんぱんと服の汚れを払ってくれる。気恥ずかしかったけれど、この状況に頼れる大人がいるのはありがたかった。

「…でも、なんでここに?王子の方が早く出ていったんじゃ」
「君が出てくるのを待ってたんだ。さぁ、行こう。ここは危険だ」

珍しく、マルスの表情に余裕がない。そんな彼が危険というのだから、それは嘘やはったりではないだろう。差し出される手を握り返す。マルスはやんわりと僕の手を引いて歩き始めた。

木々の間を淀みなく歩き続けるマルスにくっついて、僕はこけつまろびつしながらその後を追う。辺りは一切の静寂で、それで一層自分の息づかいさえがうるさかった。
マルスはあれから一言も喋っていない。僕も黙っている。とても雑談ができる状況ではない。

「…大丈夫かい?」

どれくらい歩いたのか、汗だくになってマルスの後を追っていたら、唐突にマルスが振り向いて言った。正直もうへとへとだけれど、切羽詰まった様子のマルスにこれ以上余計な心配はかけたくなかった。

「大丈夫…」
「そろそろ休もう」

が、そんな僕の浅はかな見栄などマルスはお見通しで、僕が何か言うより早く荷物を下ろして野宿の準備を始める。僕もマルスに倣って荷物を下ろす。時計の夜光盤を見ると、深夜の二時を指していた。

「…ごめん、もっと遠くに行くつもりだったんでしょ?」

沈黙に耐えかねて謝罪の言葉を吐くと、しかしマルスはにこりと笑って首を振った。

「いや、ここまで来ればまず心配いらないだろう。それより陽が昇ってからが本番だ、しっかり休んで」
「え、でも」

こういった修羅場の場合、夜中の方が危険なのではないか。僕は眠りの浅いマルスやリンクと違って、一度眠ったら朝まで起きれない。しかもこんな夜更かしだ。きっと明日は寝坊するだろう。
マルスは苦笑して、自分のマントを外し僕にかけた。

「無理は禁物だ。もしかしたら三日間こんな生活になるかもしれないんだからね。たくさん歩いて疲れたろう。だから今日はお休み」
「でも…僕、王子の迷惑に…」
「迷惑だと思ってたら、君を待ったりしないよ」

優しく、しかし有無を言わさぬ口調で諭され、僕は渋々マルスのマントにくるまる。疲弊しきった身体はすぐに休息の態勢に入り、僕は程なくして眠りに落ちた。

***

自分に気を遣って、なかなか休もうとしない子供を宥めすかして、なんとか横にさせた。すると相当疲れていたのか、数分と経たないうちに子供の吐息は規則正しい寝息へと変わる。
無論、そうでなければ困る。そのために延々と森の中を歩かせたのだから。

「ネス君?」

小声で呼び掛けるが、ぴくりとも反応しない。熟睡している。浅く安堵のため息を吐いて、僕は立ち上がった。
仲間同士で殺し合いをさせて、最後の一人になるまで戦い続けろなどとふざけたことを抜かしたのは、禁忌を名乗るやはりふざけた存在だった。当然抵抗する僕たちではあったが、見せしめに、彼と同じくらいの子供が一人殺された。
僕たちに付けられたこの首輪には爆弾なんて物騒なものが内蔵されているらしく、無理に外そうとしたり、指定されたエリアに足を踏み入れると爆発するらしい。あるいは、全ての起爆装置を握る禁忌の気紛れで僕たちの頭が吹き飛ぶこともあろう。十二時間のうちに一人の死者も出なかったならば、ランダムで誰かの首輪を起爆させると禁忌本人が言っていたのだから。仲間を殺したくなくとも、じっとしているだけではいたずらに仲間を失うだけである。
渡された地図を見るに、ここは孤島で、海は荒れて脱出の望みは薄い。そもそも首輪自体に発信機能があるのだから、逃げようとするだけ無駄だ。
頼みの綱のマスターまで禁忌に捕らわれているときた。僕たちの前に引きずり出されたマスターは随分憔悴していた。

僕たちに逃げ場はない。このゲームに参加する以外、僕たちが助かる道はない。

仲間を殺して生き延びるか、仲間を殺さず死ぬのを待つか。綺麗事を言うなら後者を選びたいが、彼がこのゲームに参加させられているなら話は別だ。
彼を死なせたくない。欺瞞と裏切りに満ちた殺し合いに参加させたくない。――例え他の誰かを犠牲にしても、彼に生き残って欲しい。

「少し、出てくるよ」

返事などないと分かっていながら、それでも告げる。
彼をここに一人残していくのは少し不安だが、大丈夫、きっと彼は朝まで目覚めないし、この殺し合いのゲームにあの呑気な仲間たちが乗るとは考えられない。僕が夜な夜な何をしているかなど気付きもしないだろう。

僕は極力音を立てず、支給された武器を懐に隠して夜の帳に紛れ込んだ。

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