日記46(リンマルアイ)※R18

彼は、僕よりも背丈が低い。
剣の腕だって僕が指南してやるほどだから、彼に遅れを取ろうとは夢にも思っていなかった。

「…私だって、これくらい出来るんですよ」

暗い笑みを浮かべながら、リンクは壁に縫い付けた僕の腕を握る手に力を込めた。元々自分には力がないことを自覚していたが、彼の力は想像以上に強い。
逃げられない。

「ねぇ、マルス?まだ私は子供ですか?」
「…体ばかり大きくなって、心はまだまだ幼稚だ」

この状況でこんなことを言うのは、かえって彼を逆上させるだけだとぼんやり分かっていた。けれど、まだ僕は心のどこかでリンクを信用していたかったのかもしれない。
案の定、リンクは表情を険しくして、僕の腕に爪を立てた。

「い…ッ」
「マルスの、分からず屋」
「分からず屋は、君の…ひッ――!?」

反駁しようとするも、その声はひっくり返って消えてしまう。彼が僕の両足を割って膝を入れたからだ。そのまま体を密着させて、腿を下半身に擦り付けられる。
あまりの事態に頭が追い付かなくて、抵抗しようと思うより恐怖が先走った。何か言おうと口を開くも、言葉が浮かばずぱくぱくとするしかない。
彼は妖艶に笑んだ。

「…マルス、可愛い…」
「な、にを考えてるんだ君は…!いい加減にしないと、怒るよ」
「怒ればいいじゃないですか」

リンクはうっとりと目を細める。けれど、それはまるで弱った獲物を前にした猛獣のようで、僕は返す言葉を失って彼の前に畏縮するしかない。
彼の手が緩み、するりと僕の肘を撫で、二の腕を伝って胸板に達する。僕が彼の手の動きに気を取られている間も、相変わらず彼は僕の下腹部に腿を擦り寄せていて、その動きがあまりに性的で、思わず鳥肌が立った。
彼は僕の胸元を撫で回しながら言う。

「分かります…?私が、興奮してること」
「は…?な、に――」

彼との体の密着が更に増し、腿に硬いものの当たる感触がしてぎょっとする。恐る恐る視線を下に移すと、彼の厚手のチュニックを持ち上げてその中心が勃起していた。
ようやく理解した。彼が何をしようとしているかを。
リンクは僕の耳元に唇を寄せて囁いた。

「マルスのことを考えると、こうなるんです」
「ぅ…嘘…」
「嘘だなんて酷いですね」

彼は失笑し、そろそろと左手を胸元から腹筋、さらにその下へと這わせていく。ああ、いよいよ不味いと思った刹那、まったく無防備だったところに彼の右手が僕の顎を掴み、無理矢理唇を塞がれた。
彼は慣れた手付きで僕のベルトを緩め、下着の中に手を入れる。思わず声を上げたが、それも彼の深い口付けに呑み込まれてしまった。

「んっ…り、リンク…!」
「いいですね…もっと…」

やめてくれ、と言おうとして、しかし下半身に直に与えられる刺激に全身が震える。背中に壁がなければすぐにでも腰が砕けてしまいそうだ。
彼は器用に片手で僕の上着をはだけさせ、喉元から胸板にかけてを念入りに舐めた。そのうちに胸の突起を執拗に舌で弄るようになって、時々思い出したように吸い付いて僕の肌に痕を付けては、満足そうに笑う。
物理的な刺激に僕自身も勃起し始めるまで、彼は僕の顔や胸に唇を寄せ、下半身への愛撫を止めなかった。

「…マルス…」

それまでは比較的穏やかだったリンクは、しかし余裕のない声で僕を呼ぶ。何も反応出来ないでいると、想像以上に力強い腕で抱え上げられ、ベッドに押し倒された。何が何だか分からないで、ただぼうっとリンクを見上げていると、彼は僕のズボンと下着をずり下げて、小さな壺からクリーム状の物を手に取るとそれを尻の割れ目に塗り始める。
嫌な感じがしたけれど、同時に前を弄られ何とも言い難い奇妙な感覚になる。それは彼の指が僕の窄まりを見つけ、沈み込んでいっても変わらなかった。

「ふ…ぁ…あぁ…」

後ろでは痛みがあるのに、前では気持ちよさが勝って、何かを考えるのが億劫になる。早く終わって欲しい。もっと続いて欲しい。誰でもいいから、助けて欲しい。
後ろの穴に指を突っ込まれ、激しく中を掻き回されて、その内に指の数が増えてまた掻き回される。いつの間にか痛みは薄れ、下肢にまったく力が入らなくなった。
足を持ち上げられる。そのまま彼が僕の上に覆い被さってきて、再び口付けられた。

「マルス、挿れていいですか」

強請るように言われて、意味も分からないまま頷きそうになるのを、臀部に当たる感触が押しとどめる。
いや、待て。いい訳ないだろう。

「い、いやだ…」
「無理です、待てません」

聞いておきながら、端から僕の意思など尊重する気のなかったリンクが体重をかけてのしかかってくる。
なんとか抵抗しようと手足をばたつかせてみるも、力が入らなくて上手くいかない。
そんな時、伸ばした手の先に花瓶が当たった。ベッドの隣にある背の低い棚に置かれたそれに花はなく、水も入っていない。が、ガラスで出来ていてそれなりの重さがあると推測される。
常時なら気の引ける行為だったかもしれないが、この時は僕も死に物狂いだった。深く考えるより先に花瓶を掴み、僕を押し倒すリンクの側頭を花瓶で殴打する。

「いっ…!?」

さすがに予想だにしなかったらしい反撃に、彼は頭を抱えて悶絶する。そんな彼を押しのけて這うように進み、脱がされた服を引き上げながら唯一の出口の扉に手をかける。気が動転して上手く取っ手が回らない。それでも強引に押し開いて、転がるように部屋から出た。
そのまま、振り返らずに走って逃げた。

***

「…どうしたんだ」

どこをどうやって走ったのかは覚えてないけど、気がつくと僕は自室の扉を開けてその中に倒れ込んでいた。先に部屋にいたアイクが、珍しく目を丸くしている。

「……」

誰に、何をされたか、なんてとても言えなかった。
アイクは深く追及せず、倒れた僕を抱え起こして肩を貸してくれた。そうして僕の姿を見、一言問う。

「風呂は?」
「…入る」
「湯を張ってくる」

アイクは僕をソファに座らせると、バスルームへと歩いていく。ようやく、人心地がついた気がした。バスタブに湯を張る水音が耳に心地良い。つい目を閉じると、そのままうとうとしてしまった。
リビングにアイクが帰ってきて、僕の隣に座るのが分かった。ぼんやり目を開くと、アイクが眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。

「大丈夫か」
「…うん」
「先に寝るか?」
「いや、体を洗いたい」
「…一人で出来そうか」

アイクの問いかけの意味を考えて少しぎょっとした。確かに体がだるくて、一人で身を清められるか微妙ではある。けれど、もしこの体を見られたら、いかに鈍いアイクと言えど何かに感付くかもしれない。
あるいは、アイクはそれを確かめる為に――?

「大丈夫」

気合いを入れて、腹から声を出す。まだ足元は覚束無いけれど、一人で立ち上がった。

「お風呂、ありがとう」

逃げるようにバスルームに駆け込む。アイクがどんな顔をしていたかは、分からない。

***

手首には、痣と爪を立てられた痕。よれた衣服の前は大きくはだけて、見える胸元には花びらのような鬱血のあと。ベルトの金具は外れていて、雑に腰で穿かれたズボン。
そして微かに香る精液の匂い。

聞かずとも、何が起きたかは想像がついた。マルス本人は気付かれていないとでも思っているのか、頑なに何があったかを隠そうとしているが。
マルスの相手についても目星がついている。時の勇者、リンクだ。
マルスは気付いていなかったようだが、あいつがマルスに向ける感情は、友情なんて生易しいものではなかった。そこに滲むのは情欲と支配欲でしかない。
同じ相手に、同じ感情を抱くからこそ、分かる。

ラグネルを持って、装備を整える。風呂場にいるマルスに扉越しに出掛ける旨を伝え、部屋に鍵をかけて外に出る。向かうは勿論、リンクの部屋だ。
リンクは、呼び出すまでもなく部屋の前で俺と同じく装備を整え立っていた。俺を廊下の端に見つけるや、薄く笑って向き直った。

「来るんじゃないかと思っていました」
「…マルスに何をした」
「何かしたかったんですがね、逃げられちゃいましたよ」

ほんの僅かに、安堵が胸中に広がる。では、マルスはすんでのところで逃げてきたのだ。
しかし悪びれる素振りもないリンクを前に、ラグネルを持つ手は怒りに震える。
宣戦布告すらせずに斬りかかった。それは盾に防がれ、いつの間にか抜刀していたリンクが反撃を繰り出す。紙一重でかわして距離を取ると、余裕めかした表情で奴は首を傾げた。

「先を越されて怒ってるんですか?」

どこか優越感すら漂わせ、リンクは手の中で剣を遊ばせる。俺は噛み付いた。

「違う。見損なったぞ。無理矢理犯されて、アイツが納得すると思うか」
「詭弁ですね。貴方だって、同じ部屋にいれば魔が差すときもあるでしょう」

リンクの瞳が剣呑に細められた。

「心配なんです。マルスは一日の大半を貴方と過ごす」
「…俺はそんなことはしない」
「貴方は人間が出来ていますね」

皮肉げにリンクが肩を竦める。今更ながら、こんな人間らしい顔が出来るのかと感心した。
リンクは続ける。

「マルスは優しいです。求められれば、応えてくれる」
「だが、逃げられたんだろう」
「吃驚されただけです。次は上手くやります」
「…お前は…」

反省する気もないのか。ほとんど放心状態だったマルスに、再び手を出す気でいるのか。
再びふつふつと怒りが沸き上がる。無論、この男がマルスに触れていたことが憎い。しかしそれ以上に信頼を裏切られたマルスの心情を思うとやるせなかった。

「貴様には二度とマルスに触れさせん」

ラグネルを構えて凄む。リンクは嘲りも露わに鼻で笑った。

「私より弱い貴方が、何を言います」
「次は勝つかもしれない」
「有り得ません」

地面を蹴って前に飛び出したのは、ほぼ同時だった。


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