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アニカビ後日談的なSS

「それじゃあ、行ってくるね」
手頃な長さの棒切れに、布に包んだ荷物を括り付けて肩に担ぐ。身長の低い彼が手持ちの荷物を地面に擦らずに歩くのはこれが一番効率の良い方法だった。
「ええ、風邪を引かないように、夜は温かくして寝るのよ」
「うん」
「お腹が空いたからって、落ちてるもの何でも食べちゃダメよ」
「うん」
「危なくなったら、すぐワープスターに…」
「もう、フーム、ボクはもう子供じゃないんだよ」
目の前のピンクの友人は、そう言って出会った時より少しだけ大きくなった丸い体を膨らませた。
ホーリーナイトメア社の野望を阻止して、暴君デデデの悪戯もなりを潜めて来た頃、カービィは旅に出たいと言い出した。既に流暢に言葉を話すようになっていた彼は、呆然とする私に「フームはボクがいないと寂しい?」などとからかうような軽口を叩いてみせる。弟がもう1人できたみたいだったから、寂しくないといえばもちろん嘘になる。けれど、彼が一つの星に留まるような狭い世界に生きていないことは、長く彼と過ごしてきたうちに理解しているつもりだ。だから止めるつもりはなかった。
見送りに来たのは、私1人だ。既に盛大な見送りパーティがデデデ主催で開かれ、村の人々はカービィの旅先での無事を口々に祈ってくれた。あのデデデは、以前までの憎たらしい言動が嘘のようにカービィが居なくなることを寂しがって、やっぱり城に残ってくれと彼の足元に縋り付いておいおい泣いていた。メタナイト卿はパーティの席には現れなかった。けれどカービィがこっそり教えてくれたことには、昨晩カービィの元を訪ねた彼は、旅に役立つ品をあれやこれやとカービィの荷物袋に詰めようとするので、断るのに随分苦労したらしい。
パーティで見送られ、村から出て行く彼の背中があまりに名残惜しくて、せめて道が分かれるまではと私は最後の見送りを買って出た。幼くて、あどけなくて、可愛かったカービィ。今も見た目は変わらないけれど、何も知らなかった赤ん坊の頃とは随分違った雰囲気で彼は私の隣を歩いていた。
「フームも、みんなも、大袈裟だなぁ。ちょっと星の外に出掛けていくだけなのに」
カービィはどこか他人事のようにつぶやく。普通はちょっとで星の外に出掛けたりはしないのだけど、彼は次世代の平和を守る星の戦士なのだから、この感覚は当てはまらない。
「少し外を見て来たら、またすぐここに帰ってくるから」
カービィは少し照れ臭そうにそう言った。
ここが彼の帰る場所になっているなら、それはとても喜ばしいことだ。星のゆりかごに運ばれて、半ば事故のようにこのププビレッジに流れ着いたカービィ。それでも彼にとって、ここは帰るべき場所となっているのだと、そう思ってくれているのだと分かると、少し胸が熱くなる気がした。
「……えぇ、そうね。お土産話、楽しみにしているわ」
まかせて、と彼は胸を張って答える。

そのお土産話を私が聞く機会は、ついに訪れなかった。


この後はるかぜとともに(初代)に繋がる

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