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灯火の星SS

やはり、というか期待通りというか、自分が目を開けて最初に見たものはピンクのもちもちとした気のいい友人の姿だった。星の外からやってきた彼(いや、彼女?そういえば、きちんと追及したことはなかった)は、体を傾けてにへらと笑った。
「おはよう、マリオ」
「おはよう、カービィ」

一度大敗を喫した俺たちではあったが、それはそれ、反撃の狼煙は既に上がっていた。1人時空を超えてキーラの手を逃れたカービィは、ほとぼりが冷める頃合いを見計らってこの世界に舞い戻ってきた。そうして見知らぬ土地に戸惑うこともなく、順当に俺を見つけ出し助けてくれて今に至る。本当に、彼は生き残るに際して適任だった。俺ではこうも要領よく立ち回れなかったと思う。…多分。
目を覚まして状況もよく呑み込めていない時に隣にいたのがカービィだったことも、俺がこうして平静を保てている要因だと思う。どうしてそんなに普段通りでいられるのか、と思わず聞いてしまうと、彼は不思議そうに「普段と同じだから」と答えるものだから、それ以上問い詰めるのをやめた。
ファイターの肉体を母体として、ボディと呼ばれる容れ物を作り、スピリッツとなった「世界」の住人たちを動力に支配下に置いて動かしているキーラ。数少ない情報を集めて、何か大きな一手を打つ為の足掛かりになれば、と思考を続ける俺たちは、それと同時に鉢合わせるスピリッツたちを力ずくで解放していく作業に没頭することで、多少なりとも抱いていた手詰まり感をしばし忘れることができた。
そうして進むこと半日、それまでのどかな野道をみちなりに進んでいた俺たちの前に初めて人工物が現れる。
遺跡のような古い石造りの建造物が、道を分かつ。石畳で舗装された街道が十字に伸びて、異なる地方へと繋がっていた。それぞれの道の先に待つ仲間の姿が見える。もちろん、キーラによって母体として利用され、彼らの意識はない。
「一気に3人助けられるかな?」
「その可能性は低そうだ」
楽天的な見解を述べるカービィに、俺は制止の指示を出しながら言う。関所のようなその場所の頭上、未だ米粒のように遥か上空に見える姿ではあるが、そこには確かに監視するような「手」が浮いていた。
「やはり、カービィが世界に現れたことはキーラも気が付いたようだ。監視されている」
「本当だ。流石にここを通ったら見つかっちゃうよなぁ…」
その場に留まって全員を助けようとすれば、増援を呼ばれて立ち行かなくなるかもしれない。可能性があるとすれば、戦力を集中させた一点突破だが、それで助けられるのは1人が限度になるだろう。1人を助けた場合、俺たちの存在はキーラに露見し、あの通路を再び通り抜けることは叶わなくなる可能性が高い。
通路の先にいるのは、シーク、マルス、むらびとだった。一体どういう人選なのか、とキーラの思惑を想像しようとして、やめた。神の思惑を想像しようだなんて、あまりに俺には荷が勝ち過ぎる所業だった。
シーク、マルス、むらびと。少なくとも、すぐに助けられるのは1人である。一体誰を選べば…と考えている自分に気が付き、俺は愕然とする。仲間を助けるのに、その優先順位を決めようとしているなんて、なんという傲慢。こんなの選べるものではない。やはり、無理を推しても全員を助けるべき…
「ボクはマルスを助けた方がいいと思うなー」
カービィが上空を見つめながら呟く。俺の思惑を知ってか知らずか、星の戦士の口調はその普段の所作同様軽かった。
「…理由を聞いても?」
「シークのニンジャスキルも、むらびと君の交渉術とかも必要だと思うけど、やっぱりマルスの『判断力』がボクらには必要じゃないかな?」
思わず、言葉に詰まる。カービィはしっかりと俺の悩みの種を見透かしていた。こうした時、最善を選ぶことは難しい。時に非情な判断をしなければならない時もある。その踏ん切りは俺にはなかなか付けられない。カービィには、もしかしたら可能かもしれないが、彼の判断は時々力押しに偏っている。
ある意味、マルスに辛い選択をする責任を押し付けようとしていることは否めない。しかし、それでも彼こそが適任なのだと言わしめる下地が既にあるのだ。特に味方が少ない今は、遠慮もしている余裕がない。
思い詰める俺の表情を見てか、カービィがなんでもない風に付け足した。
「どうせみんな助けるもの。順番なんて関係ないよ」
「そうかもな…」
順番が関係あるかどうかは、助けられる側にしか分からない。少なくとも自分に関しては、早くに助けてもらえて良かったと思っている。こうして味方の少ない状況で右往左往することになる他の仲間のことを想うと、自分がその役割に収まれたのはある意味救いですらある。
マルスなら、どう思うだろうか?ふと考える。他の仲間を優先して助けてくれと言うだろうか。それとも、多くの仲間を助けるために、自分の力を役立てて欲しいと思うかも?…考えたが、どちらもあり得そうで判断が付かなかった。結局、ここで下す判断は独り善がりなものにしかならない。誰かのためにと言いながら、自分が一番楽になる選択をするしかない。
それでいいじゃない、とカービィは嘯く。終わりよければ全てよしなんだから、と彼は行くべき先を見据えて続けた。
「それじゃ、マルスを助けるってことでいい?」
「そうだな、シークとむらびとには少しの間我慢してもらおう」
「…他の2人がいたこと、マルスには黙ってた方がいいかなぁ」
それまでの強気な発言から一転、突然カービィにしては後ろ向きなことを言うので俺は驚いて彼を振り向く。振り向いた先のその表情は普段と大して変わらないが、それでも彼が深刻に考え込んでいるのはなんとなく分かった。
「マルスに怒られたくないよ」
「怒りはしないだろ、多分」
優先して助けられたことを憤り、それをこちらにぶつけるような男ではない。彼の憤りはいつだって外には向かず、自分に向いていた。今回だって、他の仲間たちが未だ囚われの身であるという事実は彼を奮い立たせる要素になり得るだろう。
…そう考えて、それを利用しようとしている自分の都合のいい立ち回りに些かため息が漏れはするが。
とにかく、これ以上事態が悪化することはない。そう信じて選び取るしかない。やはり、こういう判断は慣れている人物に任せるに限る、とカービィに負けず劣らず後ろ向きな思考回路でもって、新しい希望となる「星の王子」の異名を持つ彼の元へと、俺たちは一歩踏み出した。

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